
注文住宅を建てるにあたり、敷地の広さを考慮して三階建て住宅を検討している方もいらっしゃるでしょう。
しかし、三階建て住宅はデメリットが多い、工事費が割高になるといった話はよく聞きます。
ここでは三階建て住宅の情報を少しでも多く集め今後の家づくりの参考にしたいとお考えの方のために、三階建て住宅のメリットやデメリット、リスクを回避してより快適な三階建て住宅を建てる方法や、工事費が高くなるといわれる理由についてお伝えします。所有地の形状やご家族のライフスタイルに三階建て住宅が適しているかどうか、判断の目安としてください。
1. 三階建て住宅の魅力とは?
国土交通省の統計を見ると、2002年まで減少傾向にあった木造三階建て以上の住宅着工戸数は翌年2003年から増え始め、以降13年間増減を繰り返しながらも、全住宅の着工戸数に対して4~5%の着工戸数で推移し続けています。
このことからも、はやりや一過性のものではなく、三階建て住宅には常に一定の需要があることがわかります。
参考:国土交通省「木造三階建て住宅及び丸太組構法建築物の建築確認統計について」
三階建て住宅にはどのような魅力があるのか、なぜあえて三階建ての家を建てるのか、具体例とともにお伝えします。
1-1.狭小地でも十分な床面積を確保できる
2016年度の木造三階建て以上の戸建て住宅着工棟数は、全国で2万5,869戸。そのうち約30%にあたる8,251戸が東京で、次いで大阪・神奈川の約4,000戸となっています。人口密度の高い都市部においては、家を建てるにあたり十分な広さの土地を確保するのが難しいため、建物を三階建て以上にすることで居住部分の面積を補っているのです。
例えば、66平米(20坪)の土地に家を建てるとします。建ぺい率が60%とすると、二階建ての場合は79平米(23坪)の家しか建てられませんが、三階建てにすることで118平米(35坪)まで面積を増やすことができるのです。
また、都市部は地価が高く、注文住宅を建てようと思うと建築費より土地代のほうが高額になってしまうこともめずらしくありません。そこで、あえて狭小地を購入して土地代を抑え、三階建て住宅で居住面積を確保するという方も多いのです。
1-2.ライフスタイルに応じて計画できる
日常的に車を運転するのであれば、一階にビルトインガレージを組み込んだ三階建て住宅にすることで、車の駐車スペースを確保できます。建築面積が10坪あれば、普通車が2台は置けるでしょう。
商業系の地域でよく見かけるのが、一階を店舗、二階と三階を居住部分とした三階建て住宅です。店舗や事務所との併用住宅をお考えの方にも、三階建て住宅は有効です。
また、二世帯住宅を三階建てで計画することで、親世帯と子世帯の間にほどよい距離ができ、世帯間のプライバシーを守りやすくなるというメリットもあります。
このように、ライフスタイルに応じてレイアウトや住まい方を考えてみてください。
1-3.プライバシーを守りつつ眺望を楽しめる
周辺の環境にもよりますが、眺望に対する満足度の高さは、二階建ての住宅を建てた方と三階建て住宅を建てた方で大きく異なる部分です。
三階の居室からの眺めはもちろん、屋上をルーフバルコニーとして整備することで、より景観を楽しめます。自宅にいながら夜景や打ち上げ花火を見ることができるのは、三階建て住宅ならではの魅力といえるでしょう。
1-4.自然災害の被災リスクが軽減される
近年、多くの地域が台風やゲリラ豪雨による被害に見舞われたことで、水害に備えた住まいを建てたいというニーズが高まっています。一階部分をガレージとして、生活の主体を二階以上に配置することで、万が一の場合にも冠水被害を免れることができます。
小さなお子さまや高齢者のいるご家庭では、遠くの避難所へ移動するよりも自宅の三階に避難したほうが安全な場合もあるでしょう。
2.三階建て住宅の建築時に注意すること
敷地条件などの特別な事情がある場合を除いて、三階建て住宅が広く普及しないのには理由があります。
三階建てのデメリットを感じさせない住まいをつくるためには、どのような点に注意すべきなのでしょうか。
2-1.階段の上り下りが負担になる
一日に何度も一階から三階まで上り下りするのは、毎日となるとやはり大変です。できるだけ負担の少ない間取りにする必要があるでしょう。
例えば、水まわりを一階、LDKを二階、プライベートルームを三階というふうに分けてしまうと、一階と二階を行き来しながら家事をすることになってしまいます。そこで、一階に夫婦の寝室とトイレ、二階にLDKと浴室、洗面脱衣室、三階に子供部屋と予備のトイレという具合にプライベートゾーンを振り分けることで、家事動線を二階に集中させることができます。
また、老後の生活に支障が出ることのないよう、将来的にホームエレベーターを設置するためのスペースを用意しておくのも一案です。
2-2.動線が複雑になりやすい
建築面積が小さいと建物に対して階段の占める割合が大きくなり、ムダな廊下ができたり、動線が交錯したり、部屋の形状が細長くなってしまったりと、間取りが複雑化しやすい傾向にあります。
この場合、面積の小ささを逆手にとって、間仕切り壁や建具をできるだけ排除することが有効です。
具体的には、二階にLDKと水まわりを配置する場合は浴室と脱衣室だけを壁で仕切り、廊下や階段は仕切らずにLDKとひと続きのワンフロアとする、といったイメージです。
できるだけシンプルな間取りにすることで、動線の不自由さを回避でき、視界が抜けることで狭さも感じさせません。
2-3.採光計画が難しい
敷地が少し狭くても周囲の土地が開けているのであれば問題ありませんが、三方を建物に囲まれた密集地となると、一階と二階部分の採光がとても難しくなります。
この場合、敷地いっぱいに建物を建てるのではなく、居住部分を削ってでも通り庭や坪庭などのライトコートを確保し、室内に光と風をとり入れるなどの工夫が必要となります。
前面道路に向かって採光のための開口を設ける場合は、目隠し用の格子なども設置する必要があるでしょう。
2-4.家の中の温度差が大きくなる
一般的に暖気は上へ、冷気は下へ移動しやすい性質があることから、三階建て住宅は冬には一階が寒く、夏には三階が暑い家になる傾向にあります。特に間仕切りのないオープン階段を採用した場合には、冷暖房効率が非常に悪くなってしまいます。
狭小地において三階建て住宅を建てる際は、建物の気密性と断熱性を高め、一階から三階まで建物全体で冷暖房や換気などの空調計画を行うことが重要になります。
2-5.建築基準法の規制に注意
三階建ての家を建てる場合、特に注意すべき法規制にはどのようなものがあるのでしょうか。順番に見ていきましょう。
2-5-1.高さに関する制限に注意する
すべての建築物は、建築基準法で指定された「建ぺい率」と「容積率」によって、建てられる面積に上限が設けられています。
例えば、建ぺい率60%、容積率300%の地域で、66平米(約20坪)の土地に家を建てるとすると、延床面積198平米(59坪)が上限となります。建築面積の上限が39平米(11坪)ですから、単純計算で5階建ての家が建てられることになります。
ところが、「絶対高さ制限」が適用される地域では、建物の高さは10メートル(または12メートル)を超えることができませんから、三階建てか四階建てが限度となるのです。
また、前面道路や敷地境界との位置関係によっては「斜線制限」にかかってしまう場合や、自治体によっては「高度地区」や「日影規制」の対象区域になっていることもあります。
これらの規制にかかると、三階部分を後退させるなどの措置が必要になる場合もありますから、緩和措置も含め、あらかじめ敷地条件を確認しておくようにしてください。
2-5-2.敷地内通路と代替進入口について
これまで三階建て住宅の敷地内には、災害時の避難通路として幅1.5メートル以上の敷地内通路を設けなければなりませんでした(建築基準法施行令第128条)。
しかし、法改正により2020年4月から、三階以下で延べ200平米以下の建築物について、幅0.9メートル以上の敷地内通路を設けることになりました。三階建て住宅に関しては、敷地内通路の幅が1.5メートルから0.9メートルに緩和された形になります。
また、高さ31メートル以下の部分にある三階以上の階には非常用進入口が必要です(建築基準法施行令第126条の6)。住宅においても例外ではありません。ただし、消防活動のための代替進入口を設置することで、非常用進入口の設置は免除されます。
2-5-3.防火地域における木造三階建て住宅
住宅密集地にある築年数の古い三階建て住宅は、鉄骨や鉄筋コンクリートで建てられたものばかりです。そのため、三階建て住宅は木造では建築できないと思っている方もいるかもしれません。
実際、準防火地域で木造三階建てを建てられるようになったのは1987年の建築基準法改正以降のことです。
その後、2000年6月の改正で木造での耐火構造や木質材料の不燃材料が認定を受けられるようになり、2004年に木造枠組壁工法(ツーバイフォー工法)が、2006年には木造軸組工法が耐火構造に認定され、防火地域でも三階建ての木造住宅を建てられるようになりました。
建物の密集した市街地や住宅地は、防火地域または準防火地域に指定されていることが多いため、古い三階建ての建物は鉄骨か鉄筋コンクリート造のものがほとんどなのです。
3.三階建て住宅は割高になる?
三階建て住宅は工事費が高くなるといわれていますが、本当でしょうか。例えば、都市部において30坪程度の家を建てた場合、このような予算イメージになります。
三階建て住宅も建て方を工夫すれば、二階建て住宅と同程度に予算を抑えることができます。費用の内訳や、三階建てにするとコストアップする理由について、以下に詳しくご説明します。
3-1.構造による建築費アップ
先述したように、かつて防火地域や準防火地域の三階建て住宅はすべて鉄骨か鉄筋コンクリートで造られていました。
建築工事費は鉄骨造で1割程度、鉄筋コンクリート造で2割ほど木造よりも割高になりますから、鉄骨造や鉄筋コンクリート造で三階建て住宅を建てると、建築費は上がります。
しかし、現代では防火地域や準防火地域であっても木造三階建て住宅の建築が認められていますから、あえて割高な構造を選択する必要はないでしょう。
3-2.三階建ては強度の計算が必須
通常、建築物の設計には、自重や積載荷重、風圧、積雪、地震といった外部からの力に対して建物が安全であることを検討するための「構造計算」が欠かせません。
しかし、建築基準法第6条第1項の4号に分類された「4号建築物」は、建築士の責任のもとに構造計算を省略してもよいとされています。木造平屋建てや二階建ての住宅は「4号建築物」に該当するため、構造計算は省略される場合がほとんどです。
しかし、木造三階建て住宅に関しては確認申請書に構造計算書を添付することが義務づけられています。さらに、軒高9メートルまたは高さ最高13メートルを超える建築物については、安全上必要な技術的基準に適合していることの適合判定が必要です(建築基準法第20条第1項2号)。
構造計算にかかる費用として20万円程度、適合性判定業務手数料として別途10~20万円程度の費用がかかると覚えておいてください。
3-3.地盤改良費用が高額になる
確認申請書に添付する構造計算書の作成にあたっては、あらかじめ地盤調査を実施しなければなりません。そのため、かつては三階建て住宅の建築には地盤調査費用と地盤改良費用が余分にかかるといわれていたのです。
しかし、2000年の建築基準法改正により、地盤状況に応じた基礎を設計することが木造住宅にも求められるようになり、三階建て住宅に限らず木造住宅を新築する際の地盤調査が事実上義務化されました。
地盤調査費用は「スウェーデン式サウンディング試験」で10万円前後ですが、三階建て住宅の場合、自治体から「ボーリング標準貫入試験」を要求される場合があります。その場合の調査費用は20~30万円と少し割高になります。
三階建て住宅は自重が重くなるぶん地盤改良費が割高になる可能性もありますが、改良費が高額になるか否かは、建物よりも地盤の状態によるところが大きいでしょう。
3-4.必ずしも割高になるとは限らない
このほか、足場の費用が高くなる、工期が延びるといった理由で工事費が若干高くなることがありますが、そのぶん三階建て住宅では基礎と屋根にかかるコストを抑えることができます。平屋にすると基礎と屋根の面積が大きくなるため、コストアップしてしまうのです。
ただし、二階建てと同じ建築面積で三階建てにすれば、当然ながら建築費は大幅にアップします。ビルトインガレージにもコストはかかり、1台分で200万円程度と考えておいてください。
また、防火地域や準防火地域で三階建て住宅を建てる場合、建材に不燃材を使用することで、建築コストが1~2割程度アップします。これが、三階建て住宅でコストアップする最大の要因といえるでしょう。それでも、土地代、建物代、立地条件などをトータルで考えると、三階建て住宅のコストパフォーマンスは決して悪くないといえるのではないでしょうか。
4.三階建て住宅の代表的な間取りとは
それでは、三階建てで注文住宅を建てるとしたら、どのような間取りになるのでしょうか。代表的な間取りをいくつかご紹介します。
- ピロティ
- ルーフバルコニー
- 二世帯住宅
一階部分を柱だけで構成したピロティは、駐車場以外にもアウトドアスペースとしてさまざまな用途に利用できます。床面積から除外できるため、容積率の小さい住居系地域で活用したい間取りです。一階部分に壁がなく、居住部分が二階以上にあるため水害にも強いとされています。
三階建てのメリットを最大限に享受するためには、屋上をルーフバルコニーとするのがおすすめです。まわりの視線を気にすることなく、日常的にアウトドアを満喫できます。三階にLDKを配置すれば、天気のよい日にはルーフバルコニーでお茶や食事も楽しめます。
三階建ての二世帯住宅というと、一階を親世帯、二階・三階を子世帯が使用するのが一般的です。
二階のリビングを二世帯共有としてもいいですし、プライバシーを重視するのであれば、子世帯用の屋外階段と二階玄関を設置して、一階部分と完全に分離してもよいでしょう。
4-1.三階建て住宅はハウスメーカー選びが重要
十分に広い土地があるのなら、敷地と建物のバランスからも居住性の面からも、あえて三階建て住宅を選択する必要はありません。
しかし、三階建て住宅を選択肢のひとつとしているなら「狭い土地だから」と妥協して建てるのではなく、三階建て住宅のプランニングを思いきり楽しんでみてください。ご紹介した間取り以外にも、工夫とアイデアしだいで三階建て住宅の可能性はまだまだ広がります。
そのためには、いかに提案力のあるハウスメーカーと出会えるかが大きなポイントとなります。
まずは、狭小地における三階建て住宅の実績が豊富なハウスメーカーを探してみてください。
まとめ
あまり一般的とはいえない三階建て住宅ですが、実は平屋建てや二階建ての住宅では得られない魅力やメリットがたくさんあるのです。
気がかりに思っていた建築費についても、実は二階建ての家とさほど大きな違いがあるわけではなく、土地の取得費用も含めて考えると、むしろ総費用としては安く抑えることができそうです。
動線や採光・風通し、空調計画などのポイントをしっかり押さえ、工夫とアイデアをこらした三階建て住宅を計画してください。