敷地内に高低差があるとき、高い部分に住宅を建てると、住宅の重みで斜面の土が崩れてしまうことがあります。土台となる地面が崩れると、住宅そのものにも大きな影響が及びかねません。
これを防ぐためには、斜面の部分に擁壁(ようへき)を作り、地面が崩れないように補強をします。擁壁を作っておけば、大切な住宅を長持ちさせるだけでなく、敷地が高くなる分、日当たりを良くすることも可能です。
(擁壁のメリットは「1-2.擁壁の役割とメリット」で詳しく解説します。)
本記事では、家の擁壁について以下の内容を解説します。
- 擁壁工事が必要なケース
- 擁壁工事の費用相場、擁壁の種類
- 土地選びの注意点
本記事を読んでいただければ、高低差のある土地でも安心して住宅建築を検討できるでしょう。
これから住宅を建てようとしている方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
1.擁壁とは斜面に作る壁状の構造物!役割・メリットは?
擁壁とは、斜面に作る壁状の構造物です。坂が多い土地や、道路よりも住宅の敷地が高くなった土地などで見かけることも多いでしょう。
擁壁の素材や役割、メリットについて紹介します。
1-1.現在は鉄筋コンクリート造が一般的
宅地造成等規制法では、擁壁は鉄筋コンクリート造か無筋コンクリート造、間知石練積み造、その他の練積み造のものと定められています※が、現在一般的に用いられているのは鉄筋コンクリート造です。
また、擁壁は各自治体が条例で定めていることがあります。施工の前に法律や条例に合致しているか確認しておくとよいでしょう。
擁壁の種類ごとの費用目安など、具体的な予算について考えたい方は「3.擁壁工事の費用目安」をご参照ください。
積み石は法律的には擁壁とは呼べない
石を積んだだけの積み石は、法律的には擁壁と呼べません。石を使って擁壁を作るためには、石と石の間をコンクリートで固めるなど、一定の処置を行う必要があります。地盤の状態の判断を含めて、ご自身でやるのは大変危険なので、まずは専門家に相談することをおすすめします。
擁壁を含めて家づくりの疑問や不安を解消したい方は、ぜひ無料オンライン相談サービス「HOME4U 家づくりのとびら」にお問い合わせください。注文住宅に精通したプロが、あなたの疑問にその場でお答えします。
1-2.擁壁の役割とメリット
高低差のある土地に擁壁を作ることには、次の2つのメリットがあります。
- 土砂崩れが起こりにくくなる
- 日光を確保できる
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1-2-1.土砂崩れが起こりにくくなる
擁壁を作っておけば土砂崩れが起こりにくくなるため、安心して低い土地に建物を建てることができるでしょう。
高低差がある土地の下側に建物を建てる場合、大雨や地震などにより土砂崩れが起こり、建物にも影響が及ぶ可能性があります。
また、高低差がある土地の上側に建物を建てる場合は、建物の重みで土地が崩れる恐れがあります。
このような場合も擁壁を作っておくことで、土地の形状が崩れず、建物に被害が及びにくくなるでしょう。
1-2-2.日光を確保できる
建物の敷地を高くすることで、日当たりが良くなります。
擁壁を作ると土地が堅固になるので、安心して斜面の上部に建物を建てられるようになります。
また、元々高低差がない土地でも、盛土をしたうえで擁壁を作れば敷地を高くすることができます。
日光が確保しづらい土地に住宅を建てるときも、擁壁は役立つといえるでしょう。
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2.家を建てる際に「擁壁」が必要になるケース
次のいずれかに該当する場合は、擁壁を作ることが必要になります。
- 高低差が2メートル上あるとき
- 高低差があり土砂崩れが不安なとき
- 道路よりも敷地が高いとき
- 隣家の敷地よりも自宅の敷地が低いとき
それぞれのケースで擁壁が必要になる理由について見ていきましょう。
2-1.高低差が2メートル以上あるとき
土地の高低差が2メートル以上あるときは、各自治体で定める通称「がけ条例」によって擁壁を建てることが定められています。
ただし自治体によって高低差の測定方法などは異なるので、各自確認しておきましょう。
2-2.高低差があり土砂崩れが不安なとき
条例によって擁壁工事が必要でなくても、擁壁は作ることができます。
例えば敷地内に高低差があるときや、周囲よりも一段高く、あるいは低くなっている部分に住宅を建てるときは、土砂崩れ予防のためにも擁壁を作ることができるでしょう。
2-3.道路よりも敷地が高いとき
道路より敷地が高いときも擁壁を作る必要があるかもしれません。
わずかな高さの違いでも、住宅の重みで土地が崩れ、住宅に亀裂や歪みなどの影響が及ぶ可能性があります。大切な住宅を長持ちさせるためにも、土地の高さが周囲と異なるときは擁壁を検討してください。
2-4.隣家の敷地よりも自宅の敷地が低いとき
隣家の敷地よりも自宅の敷地が低いときは、日当たりが悪くなる可能性があります。また水はけが悪くなるため土地や建物が湿りがちになり、住宅が長持ちしない原因となるかもしれません。
そのような場合は、隣家の敷地と同じ高さ程度になるように盛土をすることができます。単に盛土をするだけでは地崩れの恐れがあるので、擁壁で固めておく必要があるでしょう。
以上が、擁壁が必要になるケースの例です。
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3.擁壁工事で申請が必要なケースと注意点
擁壁工事を行う場合、自治体への申請が必要なケースがあります。この章では、どんな場合に工事申請が必要なのか、また工事申請をする際の注意点について解説します。
3-1.擁壁工事で申請が必要なケース
2メートル以上の高さの擁壁工事をする場合、自治体に擁壁工事の申請をすることを建築基準法によって定められています。
また、「宅地造成工事規制区域」に該当する場合、がけ崩れや土砂災害など自然災害の発生が懸念されるため、以下のようなケースであれば、申請が必要となります。
- 「切り土」で、高さ2メートル超、30度以上の角度の擁壁を作る場合
- 「盛り土」で高さ1メートル超、30度以上の角度の擁壁を作る場合
- 「切り土・盛り土」をどちらも行い、2メートル超、30度以上の角度の擁壁を作る場合
- 2メートル以下でも、宅地造成面積が500平米を超える場合
3-2.工事申請の注意点:許可までに1ヶ月ほどかかる
申請から許可までには1ヶ月ほどかかるので、擁壁工事を検討している方は早めに申請してください。
また建物の建築申請は、擁壁工事の許可を受けてからとなります。ハウスメーカーの営業担当者としっかりスケジュールを話し合い、スムーズに申請書類を提出できるように準備しておくとよいでしょう。
家づくり全体の流れについては「注文住宅の流れ」の記事をご覧ください。
4.擁壁工事の費用目安
鉄筋コンクリート造の擁壁を作るのに、1平米あたり2万5,000〜10万円ほどの費用がかかります。
また、すでに擁壁がある場所に作り直す場合には、撤去費用がかかるため、通常の擁壁工事費用に数百万円加算されることが一般的です。
耐久性には問題はないものの、一部補修が必要な擁壁に関しては1平米あたり1万〜2万円程度の費用がかかります。
家を建てる際や、建て替えの際にかかる工事費用に関しては「家を建てる費用」や「家の建て替え費用」の記事も参考にしてください。
4-1.【種類・高さ別】擁壁工事の費用目安
ハウスメーカーにもよりますが、一般的に無筋コンクリート造や練積み造の擁壁は、鉄筋コンクリート造よりも費用が安価です。
ただし、擁壁の種類はメンテナンスが必要となる目安である「耐用年数」も異なります。擁壁の種類を決めるときは、初期費用だけでなく耐久性にも注目しましょう。
種類 | 費用目安(/平米) | 耐用年数 |
---|---|---|
鉄筋コンクリート造 | 2.5万~10万円程度 | 20~50年 |
無筋コンクリート | 2万~5万円程度 | |
練積み造(間知) | 2.8万~4.5万円程度 |
なお、擁壁の耐用年数は、厚さや排水状況によって短くなることもあります。
また、擁壁の費用は、高さによっても費用が変動します。
擁壁の高さ | 費用目安(/平米) |
---|---|
2メートル以下 | 5万円程度~ |
3メートル | 7万円程度~ |
擁壁は1平米あたり5万〜10万円ほどですが、擁壁の高さが高いほど割高になる傾向にあるので念頭に置いておきましょう。
4-2.立地条件によっても費用は変わる
擁壁を作る場所の勾配がきついときや、隣接した道路が狭く車両が入りにくいときは、作業の手間と時間が増えるため、費用もその分かさみます。
場合によっては、交通整理などの人員も配置する必要があるため、さらに人件費がかさむ可能性があるでしょう。
4-3.自治体の補助金を受けられることがある
自治体によっては、擁壁造成時に利用できる補助金制度を設けていることがあります。お得に家が建てられるよう、利用できる制度は活用してみてください。
また、家を建てる際にはさまざまな補助金制度があります。詳しくは「新築住宅の補助金」の記事をご覧ください。
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5.主な擁壁の工法3つ
擁壁工事の主な工法は、次の3つです。
それぞれどのような状況で用いる工法なのか、詳しく解説します。
5-1.L型
高低差がある土地の高い部分に住宅を建てる場合には、L型の擁壁工事を行います。
L型擁壁とは、L字の垂直の部分が斜面を支え、底辺の部分が高地の地面の中に食い込む形の擁壁です。
5-2.逆L型
高低差がある土地の低い部分に住宅を建てるときには、逆L型の擁壁工事を行います。
逆L型擁壁とは、L字の垂直の部分が斜面を支え、底辺の部分が低地の地面の中に食い込む形の擁壁です。
5-3.逆T型
高低差がある土地全体を保有している場合には、逆T型の擁壁工事を行うことがあります。
逆T型擁壁とは、逆T字の底辺の部分が斜面前後の地面の中に入り込み、垂直の部分が斜面を支える擁壁です。
6.【土地選び】擁壁に関して確認しておくべきポイント
高低差がある土地、あるいは擁壁が含まれている土地を購入すると、あとで擁壁工事などの費用が生じることもあります。想定外の出費に悩まされることがないように、事前に次のポイントを確認しておきましょう。
- 土地代に擁壁工事費が含まれているか
- 擁壁がある場合は、擁壁が現行の基準を満たしているか
- 擁壁がある場合は、擁壁が傷んでいないか
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
6-1.土地代に擁壁工事費が含まれているかを確認
分譲地の場合、擁壁工事費用は土地代に含まれていることが一般的ですが、その他の宅地の場合、土地代とは別で請求されることもあります。
そういった場合には、住宅建築前に擁壁工事が必要になるかもしれません。
擁壁工事には数百万円かかることも少なくなく、土地自体が安価でも結果として割高になることがあります。予算オーバーの要因にもなってしまうので、土地を購入する際には、必ず土地代に擁壁工事費が含まれているかを事前に確認しましょう。
6-2.【擁壁工事済み物件】現行の基準を満たしているかを確認
擁壁工事済みの物件の場合でも、擁壁が現行の基準を満たしているか確認する必要があります。現行の基準を満たしていないときは、擁壁を撤去して再度施工する必要があるため、通常の擁壁工事よりも工事費が高くなるでしょう。
また自治体によっては条例で擁壁の基準を独自に決めていることもあります。ハウスメーカーにも相談し、自治体の条例を満たしているのか確認しておいてください。
6-3. 擁壁のある物件は傷み具合も確認しておく
擁壁が現行の基準を満たしている場合でも、損傷があるときは修繕費用が発生します。次のいずれかの状態が見られるときは、修繕工事が必要かもしれません。
- 大きなひび割れ、亀裂などがある
- 水抜き穴から茶色の水が出ている
- 擁壁の隙間が白く変色している
- 排水がうまくいっていないため、擁壁面全体が濡れている
- コケが生えている
以上が、土地選びの際に擁壁に関してチェックしておくべきポイントです。
まだ土地購入が済んでおらず、どのような土地を選ぶか迷ったときは「土地の探し方」の記事も参考にしてください。
また、せっかくいい土地に出会っても、建てたい家のイメージが決まっていないと「本当にこの土地でいいのか」と迷いが生じ、なかなか契約に踏み切れず、注文住宅の完成が遅れてしまいます。
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7.擁壁工事を進める際のトラブル防止策
擁壁工事の施工中、あるいは施工後にトラブルが生じることもあります。次のポイントに留意し、トラブルを回避していきましょう。
- 耐用年数・メンテナンス費用を把握しておく
- 境界に擁壁を作る場合、隣人への相談は必須
- 地盤調査をしてリスクのない擁壁工事をする
- ハウスメーカーに相談しながら進める
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
7-1.耐用年数・メンテナンス費用を把握しておく
「3-1.【種類・高さ別】擁壁工事の費用目安」でお伝えしたとおり、擁壁も住宅と同じく耐用年数があります。一般的に20〜50年といわれていますが、擁壁の厚さや排水状況によっては耐用年数が短くなることもあるので注意が必要です。
また、ひび割れや亀裂などが生じたときは、早めに補修工事をすることで再工事の時期を遅らせることができます。変化に気づくためにも、こまめに擁壁の状態を確認しましょう。
メンテナンス費用については、「ハウスメーカーの保証・アフターサービス」の記事を確認したり、事前にハウスメーカーに問い合わせておくのがよいでしょう。
7-2.境界に擁壁を作る場合、隣人への相談は必須
隣地との境界に擁壁を作る場合は、たとえ擁壁が隣地に入り込まなくても所有者と相談する必要があります。
擁壁工事を行うにあたって隣地に立ち入ることにもなるので、丁寧に工事内容を説明し、理解を求めておくのがよいでしょう。
7-3.地盤調査をしてリスクのない擁壁工事をする
土地の状態によっては、擁壁工事による地盤沈下が起こるおそれもあります。擁壁工事を行う前に地盤調査をしておくことで、トラブルのリスクを減らしましょう。
地盤調査や地盤改良工事にかかる費用については「家づくりにかかる諸費用の内訳」の記事をご覧ください。
7-4.ハウスメーカーに相談しながら進める
擁壁工事の実績豊富なハウスメーカーに相談することで、安心して長く住める土地に仕上げることができます。
ハウスメーカーを探す際や、注文住宅についての疑問を解消したい際には、ぜひ家づくりのとびらの無料サービスをご活用ください。
まとめ
擁壁工事を行うことで、高低差がある土地も土砂崩れが起こりにくくなります。また周囲よりも低い土地でも擁壁を作ってから住宅を建てれば、日当たりを確保しやすくなるでしょう。
高低差のある土地を購入するとき、あるいは擁壁のある土地を購入するときは、擁壁工事の実績豊富なハウスメーカーに相談することをおすすめします。どのような工事が必要か、どの程度の費用がかかるのかなど、適切なアドバイスを得ることができるでしょう。
この記事のポイント まとめ
擁壁の耐用年数は、一般的には20~50年程度と言われています。
ただし、擁壁の厚みや排水状況によって短くなることもあるため、「6-3. 擁壁のある物件は傷み具合も確認しておく」でご紹介した擁壁の傷み具合にも気を配りながら判断する必要があります。
自治体によっては、利用できる補助金もあります。擁壁以外にも、家を建てる際には使える補助金があります。
「4-3.自治体の補助金を受けられることがある」をご覧ください。
擁壁が必要な土地を購入する際には、以下のようなポイントを確認する必要があるというデメリットもあります。
- 土地代に擁壁工事費が含まれているか
- 擁壁がある場合は、擁壁が現行の基準を満たしているか
- 擁壁がある場合は、擁壁が傷んでいないか
詳しくは「6. 【土地選び】擁壁に関して確認しておくべきポイント」で解説しています。
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