家を売る時に生じた利益(譲渡所得)にかかる譲渡所得税は、最大39.63%(所有期間5年以下の場合)の重い税金です。
税金によってほとんどの利益が持っていかれるのではないかと、不安を感じている方も多いでしょう。
ただし、一般的なマイホームの売却では、譲渡所得税がかかる方は多くありません。
マイホームを売却する場合は3,000万円特別控除の特例を利用できるためです。
この記事では3,000特別控除がどんな制度で、どのような場合に利用できるのかを詳しく解説します。
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Contents
1.マイホーム売却で利用できる「3,000万円特別控除」とは
3,000万円特別控除とは、譲渡所得(売却益)を最大3,000万円まで控除できる制度です。
正式には、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といい、マイホーム(居住用財産)を売却した際に適用できる特例となっています。
譲渡所得は、売却代金から購入にかかった費用(取得費)と売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いて求めますが、さらに3,000万円まで差し引いて計算できます。
多くの場合で譲渡所得がゼロになり、その場合は譲渡所得税も課税されません。
- 譲渡所得=売却代金-(取得費+譲渡費用)-特別控除
- 譲渡所得税=譲渡所得×税率
※取得費:購入時の価格+購入時の諸費用
※譲渡費用:売却時の諸費用
取得費を計算する際の購入時の価格は、実際には建物の減価償却費相当分を差し引いて求めますが、この記事では解説を省きます。
3,000万円特別控除を適用した譲渡所得をシミュレーションしてみましょう。
以下の条件で計算いたします。
(税金の計算までできるよう譲渡価格を高めに設定しています。)
- 売却代金:7,000万円
- 取得費
- 購入価格:3,000万円
- 購入時の諸費用:180万円
※計算を簡潔にするために、建物部分の減価償却費は考慮していません。
【3,000万円特別控除の適用なし】
- 譲渡所得:7,000万円-(3,000万円+180万円+280万円)=3,540万円
- 譲渡所得税:3,540万円×20.315%=7,191,510円
【3,000万円特別控除の適用あり】
- 譲渡所得:7,000万円-(3,000万円+180万円+280万円)-3,000万円=540万円
- 譲渡所得税:540万円×20.315%=1,097,010円
譲渡所得が3,000万円以下だった場合、全額控除されるため非課税となります。
譲渡所得税を大きく抑えられるため、マイホームを売却する方は制度を活用しましょう。
譲渡所得税については『 不動産売却の譲渡所得とは?計算方法や節税になる特別控除 』で詳しく解説しています。
2.3,000万円特別控除が適用される要件
3,000万円特別控除を適用するには、以下の6つの要件を満たす必要があります。
【3,000万円特別控除が適用される要件】
- マイホーム(居住用財産)であること
- 物件の買主が親族や夫婦など特別な関係でないこと
- 売った年の前年、前々年に同じ特例、または「譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けていないこと
- 売った年の前年、前々年にマイホームの買換えや交換の特例を受けていないこと
- 売った建物や土地について、収容等の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
- 災害で倒壊した場合、住まなくなった日から3年目の年末までに売ること
これらの要件を満たせば、所有年数に関わらず控除が適用されます。
なお、マイホームとして認められるのは、以下のいずれかのものに限ります。
- 現在住んでいる自宅であること
- 転居済みの場合、転居3年目の年末までに売ること
- 建物解体から1年以内に土地の売却契約を結んでおり、その間に賃貸していないこと
- 単身赴任の場合、配偶者が住んでいる建物であること
上記はわかりやすくまとめた内容ですので、より詳しくは『国税庁:マイホームを売ったときの特例』をご覧ください。
3.3,000万円特別控除を受けるうえでの注意点
3,000万円特別控除を受けるうえでの注意点は以下の通りです。
- 3,000万円特別控除の対象にならない家屋もある
- 併用できない特例がある
それでは詳しく見ていきましょう。
3-1.3,000万円特別控除の対象にならない家屋もある
3,000万円特別控除の対象にならないのは、以下のような家屋です。
- 控除を受けるために入手した家屋
- 一時的な目的で入居していた家屋
- 趣味や娯楽のために所有していた家屋
3,000万円特別控除は、生活に必要なマイホームを売却した際の税金を抑えるための制度です。そのため、上記のような家屋は制度本来の目的にふさわしくありません。
また、新築でマイホームを立てる際に、仮住まいとして購入した家屋なども対象外となる点に注意しましょう。
3-2. 併用できない特例がある
3,000万円特別控除以外にもさまざまな控除がありますが、併用できないものもあるため注意しましょう。
具体的には以下の通りです。
- 住宅ローン控除
- 買換え特例
- 譲渡損失の損益通算
それぞれについて解説します。
3-2-1.住宅ローン控除は併用不可
マイホームの売却で3,000万円控除を利用すると、買換え先の新居で住宅ローン控除(住宅ローン減税)が使えなくなります。
住宅ローン控除とは、年末の住宅ローン残高の0.7%を所得税から最大13年間控除する制度です。所得税で控除しきれない部分は、翌年の住民税から控除されます。
例えば、年末の住宅ローン残高が2,000万円の場合、14万円が所得税から控除される仕組みです。
新居に入居した年とその前の2年間に3,000万円特別控除を受けている場合は、住宅ローン控除が使えなくなります。また、入居した年の翌年以後3年以内に旧居を売却して、3,000万円特別控除を受けた場合も同様です。
3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらがお得かは、売却益や住宅ローンの価格によって異なります。それぞれの節税効果を計算してみましょう。
3-2-2. 買換え特例とは併用不可
買い替え特例は3,000万円特別と併用できません。
買換え特例とは、売却代金よりも高い新居を購入した際に、売却時の利益に対する課税を将来に繰り延べできる制度です。
例えば、3,000万円で購入したマイホームを4,000万円で売却し、5,000万円で新居を購入した場合で考えてみましょう。
売却代金より新居の購入価格が高いため、買い替え特例が適用できます。
この場合、譲渡所得1,000万円への課税は先延ばしとなり、いずれ新居を売却した際に譲渡所得を合算して課税されます。
3-2-3. 譲渡損失の損益通算とは併用不可
譲渡損失の損益通算と3,000万円特別控除は併用できません。譲渡損失の損益通算とは「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の略称です。
本来、不動産の譲渡所得は分離課税であり、給与所得や事業所得と損益通算できません。
しかし、譲渡損失の損益通算を受けることで、マイホームの売却で被った損失分を他の所得から控除できます。
また、控除しきれなかった損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除できます。
4.3,000万円特別控除と併用できる特例
3,000万円控除と併用できる特例もあります。それは「10年超所有期間軽減税率の特例」です。
10年超所有軽減税率の特例とは、所有期間が10年を超えるマイホームを売却した際に、譲渡所得税の軽減税率を適用できる制度です。
3,000万円特別控除と10年超所有軽減税率の特例を併用することで、より大きな節税効果を得られます。
例えば、以下のような条件で売却した場合のシミュレーションをしてみましょう。
- 売却代金:7,000万円
- 売却時の諸費用:280万円
- 購入価格:3,000万円
- 購入時の諸費用:180万円
- 所有期間12年:10年超所有軽減税率の特例適用(14.21%)
※計算を簡潔にするために、建物部分の減価償却費は考慮していません。
【3,000万円特別控除の適用あり・10年超所有軽減税率の特例適用あり】
- 譲渡所得:7,000万円-(3,000万円+280万円+180万円)-3,000万円=540万円
- 譲渡所得税:540万円×14.21%(10年超所有軽減税率の特例)=767,340円
10年超所有軽減税率の特例を利用しない場合は、税率20.315%となるため、1,097,010円がかかります。
5.3,000万円特別控除の申請方法
不動産を売却して譲渡所得が発生した場合は、確定申告をしなければなりません。
仮に譲渡所得が3,000万円以下であり、3,000万円特別控除が適用されれば課税されない場合であっても、控除を受けるには確定申告が必要です。
一方、譲渡損失が発生している場合は確定申告の義務はありません。
しかし、譲渡損失の損益通算を利用するには確定申告が必要であるため、忘れずに手続きをしましょう。
確定申告では、所定の時期に必要書類を提出することで、各種控除を受けられます。申請時期や必要書類について、詳しく解説します。
5-1.申請する時期
確定申告の時期は、例年2月16日〜3月15日です。
税務署は確定申告の時期を過ぎても申告書を受け付けてくれますが、以下のようなペナルティが発生するため注意しましょう。
- 無申告加算税:納付すべき納税額が50万円までなら15%、50万円を超える部分には20%の税金が追加
- 延滞税:延滞分の利息(2022年(令和4年)の場合、申告期限から2ヶ月以内は2.4%、2ヶ月を超えてからは8.7%)
- 青色申告特別控除の減額:最大65万円の控除額が10万円に減額
ペナルティを受けずに済むように、期限内に申告しましょう。
5-2. 申請時に必要な書類
確定申告に必要な書類の種類と発行場所は以下の通りです。
必要書類 | 発行場所 |
---|---|
確定申告書付表兼計算明細書(譲渡所得の内訳書) | 税務署や国税庁のホームページ |
戸籍の附票の写し(住所が異なるとき) | 役所 |
売買契約書の写し | 本人所有 |
各種費用の領収書 | 本人所有 |
マイナンバーカードもしくはマイナンバーの記載がある住民票の写し | 本人所有(住民票は役所) |
譲渡した土地・建物の全部事項証明書 | 法務局 |
確定申告ではさまざまな書類が必要になります。特に各種費用の領収書は枚数も多くなるため、不動産売却関連の書類は1つにまとめておきましょう。
6.相続した空き家売却に使える3,000万円特別控除
3,000万円特別控除はマイホーム限定の特例でしたが、相続により取得した空き家を譲渡した場合の特例もあります。それが「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。
ここからは、対象となる空き家の要件や控除の要件について解説します。
【3,000万円特別控除の対象となる相続した空き家の要件】
- 亡くなった方が生前一人で暮らしていた家である
- 1981年(昭和56年)5月31日より前に建築された家である
- 区分所有建物登記がされていない(マンションでないこと)
- 相続開始から売却までずっと空き家だった
【3,000万円特別控除の対象となる要件】
- 2023年(令和5年)12月31日までに売却すること
- 相続が発生した日(亡くなった日)から3年目の年末までに売却すること
- 売却代金が1億円以下
- 夫婦か親子など特別な関係の人以外に売却すること
- 相続で土地と建物を取得すること
- 一定の耐震基準を満たすものであること
- 売った家屋や敷地等について、他の特例の適用を受けていないこと
3,000万円特別控除の対象となるのは、相続が発生してから3年以内の売却ではなく、3年目の12月31日までの売却です。
また、土地などを分割して売却する場合も、税金の計算は合計の売却代金で判断されます。1億円を超えた際には、その売却の日から4ヶ月以内に修正申告書の提出と納税が必要です。
なお、相続空き家の3,000万円特別控除と居住用不動産の3,000万円特別控除は併用可能です。しかし、同じ年に併用する場合は、2つの特例を合わせて3,000万円が控除限度額となります。
7.3,000万円特別控除に関するよくある質問
3,000万円特別控除に関するよくある質問を紹介します。
- 自宅を賃貸にした場合でも適用できる?
- 自宅を取り壊した場合も適用できる?
- 単身赴任していても適用できる?
- 店舗併用住宅の場合も適用できる?
- 共有名義の場合はどのように適用される?
それぞれについて詳しく解説します。
7-1.自宅を賃貸にした場合でも適用できる?
自宅を人に貸した場合でも適用できます。
しかし、所有者が住まなくなってから3年目の年末を過ぎると特例が適用されなくなります。人に貸す場合は、退去期限が定められている定期借家契約で締結するなど、工夫が必要です。
7-2.自宅を取り壊した場合も適用できる?
自宅を取り壊した場合は、以下の要件を満たすことで適用できます。
- 取り壊しから1年以内に売買契約を締結すること
- 住まなくなってから3年目の年末までに引き渡すこと
- 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、貸駐車場などにしていないこと
不動産はすぐに売れるとは限らないので、特段の事情がない限り買手を見つけてから取り壊したほうがいいでしょう。
7-3.単身赴任していても適用できる?
単身赴任していても適用できるケースはあります。
それは、転勤や転地療養などを理由に単身で生活しており、これらの事情がなくなったときは配偶者や子どもが住んでいる家で生活すると認められる場合です。
なお、家を売ったときに2つ以上のマイホームを持っている場合は、売った方が主として使っていた家だけが対象となります。
7-4.店舗併用住宅の場合も適用できる?
店舗併用住宅も3,000万円特別控除の対象です。
しかし、特例が適用されるのは居住のために使用していた部分のみです。確定申告では、土地や建物の面積をもとに、専用の算式で居住用の面積を計算する必要があります。
なお、居住用の面積が全体の90%以上であるときは、全体を居住用とみなして特例が適用されます。
7-5.共有名義の場合はどのように適用される?
共有名義の場合は、共有者1人につき最大3,000万円の控除が適用されます。
例えば、夫婦で共有している場合は、夫と妻がそれぞれ3,000万円まで控除されます。
しかし、控除を受ける方はそれぞれ確定申告をしなければなりません。
この記事のポイントまとめ
3,000万円特別控除とは、譲渡所得から最高3,000万円の控除を受けられる制度です。譲渡所得税を大きく抑えられるため、マイホームを売却する方は制度を活用しましょう。
詳しくは「1.マイホーム売却で利用できる「3,000万円特別控除」とは」をご覧ください。
3,000万円特別控除が適用される要件は、以下の通りです。
- マイホームであること
- 物件の買主が親族や夫婦など特別な関係でないこと
- 売った年の前年、前々年に同じ特例、または「譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を受けていないこと
- 売った年の前年、前々年にマイホームの買換えや交換の特例を受けていないこと
- 売った建物や土地について、収容等の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
- 災害で倒壊した場合、住まなくなった日から3年目の年末までに売ること
詳しくは「2.3,000万円特別控除が適用される要件」をご覧ください。
3,000万円特別控除を適用する時の注意点は、以下の通りです。
- 3,000万円特別控除の対象にならない家屋もある
- 併用できない特例がある
詳しくは「3.3,000万円特別控除を受けるうえでの注意点」をご覧ください。
3,000万円特別控除と併用できる制度は「10年超所有期間軽減税率の特例」です 。
10年超所有軽減税率の特例とは、所有期間が10年を超えるマイホームを売却した際に、通常よりも譲渡所得税の税率が抑えられる特例です。
詳しくは「4.3,000万円特別控除と併用できる特例」をご覧ください。
3,000万円特別控除を申請するには、確定申告が必要です。例年2月16日〜3月15日が確定申告期間であるため、その期間内に必要書類を税務署へ提出しましょう。
詳しくは「5.3,000万円特別控除の申請方法」をご覧ください。
相続した家でも3,000万円特別控除を使えます。これを「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」と呼びます。
詳しくは「6.相続した空き家売却にも使える3,000万円特別控除」をご覧ください。
店舗併用住宅でも3,000万円特別控除が適用されます。しかし、イレギュラーな場合は別途要件が定められているため、状況別の要件を確認しておきましょう。
詳しくは「7.3,000万円特別控除に関するよくある質問」をご覧ください。