不動産売却の譲渡所得とは?計算方法や節税になる特別控除

不動産売却を無事に完了したら一息つきたいところですが、売却後に売却益(譲渡所得)が発生した場合、税金が課されることを忘れてはいけません。

しかし「いくらかかるのか」「利用できる控除は?」など、何から手をつけるべきかわからない方も多いのではないでしょうか。

本記事では、不動産売却後の譲渡所得について正しく理解した上で、不動産売却の税金計算や節税のための特例・控除を利用するために必要な以下の5点を解説します。

  • 譲渡所得とは
  • 譲渡所得の計算方法
  • 譲渡損益に対して適用できる特例
  • 譲渡所得税の計算方法
  • 譲渡所得税のシミュレーション

譲渡所得の計算方法を把握していれば、その後に必要な確定申告もスムーズです。修正申告や追徴課税に対する不安も減り、売却後の譲渡所得を有効に活用できるでしょう。

不動産売却について基礎から詳しく知りたい方は『不動産売却の基礎』『不動産売却で税金はいくらかかる』も併せてご覧ください。

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1.譲渡所得とは?

譲渡所得とは

資産の売却により得た利益を「譲渡所得」と言います。

不動産を売却した価格から、取得費用や譲渡費用などを差し引き(2.譲渡所得の計算方法で後述)、利益が出れば譲渡所得、損失が出れば譲渡損失と呼びます。

譲渡所得は給与所得や事業所得のように「所得」として扱われるため、税金がかかることが特徴です(譲渡所得が3,000万円までであれば確定申告 により税金は全額控除される)。

税金を納税するためには、自分で

  • 譲渡所得を計算
  • 確定申告して税金を確定
  • 税務署に納税

をしなければなりません。

もし、確定申告をしなかった場合には無申告加算税や延滞税が課税されます。

計算間違え税金を少なく申告してしまった場合には修正申告が必要になり、過少申告加算税などのペナルティが発生します。計算を間違えて必要以上に納税した場合には、自ら税務署にて手続きをしなければなりません。

そのため、不動産売却したならば、正しく譲渡所得を計算することがとても重要です。

2.譲渡所得の計算方法

譲渡所得の計算方法

譲渡所得は、不動産を売却して得た費用から、購入や相続によって不動産を取得した費用や諸経費を差し引いて計算します。

具体的には以下の計算式で求めます。

譲渡所得 = 不動産売却価格 - (取得費 - 減価償却費) - 譲渡費用

売却価格は売買契約書に記載されています。以下、取得費、減価償却費、譲渡費用はそれぞれどのような費用なのか、算出方法とあわせて解説します。

2-1.取得費を算出する

取得費とは不動産を取得した際に必要になった費用のことです。

取得費には以下の項目が含まれます

  • 土地や建物の購入資金
  • 取得時に必要になった仲介手数料
  • 借主がいる状態の土地や建物を購入した際に、借主に支払った立退き費用
  • 建物の設計費用
  • 建物の地鎮祭・上棟式などの費用
  • 土地の造成費用
  • 土地の測量費用
  • 所有権などを確保するためにかかった訴訟費用(相続で遺産分割のための訴訟費用などは除く)
  • 古家付き土地を購入し、建物を建てるために支払った解体工事費用
  • 土地や建物を購入するための借り入れに対する利子のうち、実際に土地や建物を使用開始するまでの期間に支払った利子
  • 購入契約が済んでいる土地や建物の契約を解約し、新たに購入した土地や建物を購入した場合に必要になった違約金
  • 設備費や改良費に該当するリフォーム費用

出典:国税庁「取得費となるもの」

補足として、設備費や改良費は注意が必要です。

設備費は建物に対し新たにエアコンを取り付ける、食洗機を付けるなど、無かったものを追加して建物の価値を上げるためのリフォームが該当します。

改良費も同様に、省エネリフォームやバリアフリーリフォームなど建物を改良することに必要なものです。

外壁の塗替えや防水工事など、修繕して元の状態に戻す工事には適用されないので注意しましょう。

取得費を計算したあとは減価償却費を計算します。

不動産売却における減価償却とは、経年劣化によって建物の価値が減少することです。減価償却費は減少した価値を建物の期間で案分し、経費として計上するために計算した数字です。

建物にだけ適用されるもので、土地は経年劣化しないので減価償却は適用されません。取得費から減価償却費を差し引くことで、売却時点の建物の価値を正確に算出する目的があります。

減価償却費は建物の状況に応じて4種類から計算方法を選択して計算します。

  • 旧定額法
  • 旧定率法
  • 定額法
  • 定率法

税制改正の影響により4種類あり、建物を取得したタイミングによって選択できる計算方法が異なります。

2007年3月31日までに取得した建物は「旧定額法」「旧定率法」のいずれかを選択して計算しましょう。

2007年4月以降、2016年3月31日までに取得した建物は「定額法」「定率法」、2016年3月31日以降に取得した建物は「定額法」のみ選択できます。

なお、特に届出しない場合は定額法で計算するため、「旧定額法」と「定額法」について把握しましょう。

それぞれ以下の計算式にて計算します。

旧定額法 建物の取得価額 × 0.9 × 旧定額法の償却率 × 経過年数
定額法 建物の取得価額 × 償還率 × 経過年数

償却率を調べる際には国税庁「減価償却資産の償却率等表」を参照しましょう。

この時、確認したいのは耐用年数の数値です。耐用年数は、建物の資産価値が問題なく維持できる目安となる年数です。居住用や事業用などの建物の使用用途や、建物の構造によって異なる年数が設定されています。

売却する建物の使用用途、構造を確認して耐用年数を確認しましょう。不動産売却時に見られる建物の主な耐用年数は以下になります。

■建物の耐用年数一覧
非事業用(居住用) 事業用
コンクリート造 70年 47年
鉄骨造(主要な鉄骨の肉厚が4mm超) 51年 34年
鉄骨造(主要な鉄骨の肉厚が3mm~4mm) 40年 27年
木造 3年 22年

出典:国税庁「主な償却資産の耐用年数」

非事業用(居住用)の耐用年数は事業用の耐用年数の1.5倍で計算します。

この減価償却は建物購入額の5%までになるまで取得費から差し引き、5%に達した場合にはそれ以下になることがないことを覚えておきましょう。

たとえば、木造35年の物件を売却した場合には建物の取得費の5%を建物の価値として計算します。

また、取得費が不明な場合は、売却価格の5%を概算取得費として計算します。概算取得費は、減価償却などの計算も不要なので計算が簡単になりますが、譲渡所得税が高額になりやすいことに注意しましょう。

2-2.譲渡費用を算出する

譲渡費用とは不動産を売却するためにかかった費用のことで、譲渡所得を計算する際に経費として計上できます。

主な譲渡費用は次のとおりです。

  • 売却のために必要になった仲介手数料
  • 負担した印紙税
  • 借家を売却するために、借家人に支払った立退き費用
  • 建物を解体した場合に支払った解体費用
  • 既に契約している場合で、より良い条件で売却するために支払った契約を解約するための違約金
  • 借地権を売却で地主の承諾を得るために支払った名義書換料など

出典:国税庁「譲渡費用となるもの」

注意点として、住宅ローンを組んでいた場合、完済に要した手数料や抵当権を抹消するための登記費用などは含まれない点があります。

あくまで売却のために必要だった費用が譲渡費用になり、住宅ローンは売却とは直接関係がないことを覚えておきましょう。

3.譲渡益または譲渡損失が発生した場合に適用できる特例

譲渡益または譲渡損失

譲渡所得、または譲渡損失が発生した場合、条件を満たしていれば特例を適用でき、譲渡所得税をおさえ、その他の税金を控除できます。
特例には以下の5つがあります。

  • 3,000万円の特別控除の特例
  • 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した際の軽減税率の特例
  • 居住用財産の買い換え特例
  • 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
  • 居住用財産の買い替えで譲渡損失が発生した際の損益通算及び繰越控除の特例

これらの特例を使用するためには条件を満たしたうえで確定申告する必要があります。

つまり、譲渡所得でも譲渡損失でも確定申告が必須ということです。確定申告が必要という前提を踏まえたうえで、特例の詳細を確認しましょう。

3-1.3,000万円の特別控除の特例

居住用のマイホームを売却した場合、譲渡所得から3,000万円の控除を受けられる特例が「3,000万円の特別控除の特例」です。

特例を受けるためには「自分が住んでいたマイホーム」を売却する必要があるので、セカンドハウスや収益物件などは該当しません。

既に引っ越していて居住していない場合や、単身赴任で妻子だけがマイホームに住んでいない場合でも条件を満たすことで適用されます。

詳細は国税庁「マイホームを売ったときの特例」を確認しましょう。

3-2.所有期間10年超の居住用財産を譲渡した際の軽減税率の特例

10年を超えて所有していたマイホームを売却した場合、譲渡所得税の計算に用いる税率が軽減される特例が「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」です。

先述した「3,000万円の特別控除の特例」と同じように、住んでいたマイホームを売却した場合に適用されます。

特例が適用された場合、以下の税率で譲渡所得税を計算します。

■10年超の居住用財産を譲渡した際の軽減税率
譲渡所得6,000万円以下の部分 14.21%
譲渡所得6,000万円超の部分 20.315%

これらの税率には復興特別所得税分が上乗せされています。また、この特例は「3,000万円の特別控除の特例」とも併用できることが特徴です。

この特例を適用するための条件は国税庁「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」を確認しましょう。

3-3.居住用財産の買い換え特例

居住用のマイホームを売却し、新居を購入した場合、売却したマイホーム分の譲渡所得税の納税を新居の売却まで繰り延べできる特例が「特定のマイホームを買い替えた特例」です。

将来的に新居を売却しなければ、譲渡所得税を納税するタイミングが到来しないとも言いかえられます。

しかし、新居を売却した際に新居分の譲渡所得が発生した場合、先に売却したマイホームの譲渡所得税も合わせて納税しなければなりません。

この特例を適用するための条件は国税庁「特定のマイホームを買い替えたときの特例」を確認しましょう。

3-4.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」とは、マイホーム売却時に譲渡損失が発生した場合に、確定申告によりその他の所得から損失分を差し引ける特例です。

他の所得とは給与所得や事業所得のことで、譲渡損失と所得を損益通算して相殺し、所得税や住民税を減額します。

一度の損益通算で譲渡損失と所得を相殺しきれなかったとしても、翌年以降3年間繰り越して控除できるのが本特例です。

この特例を受けるための条件は国税庁「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」を確認しましょう。

3-5.居住用財産の買い替えで譲渡損失が発生した際の損益通算及び繰越控除の特例

「居住用財産の買い替えで譲渡損失が発生した際の損益通算及び繰越控除の特例」とは、マイホームを売却し新居を購入する際に譲渡損失が発生した場合に、所得から損失分を差し引ける特例のことです。

「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」と同じように、給与所得や事業所得と損益通算して、所得税や住民税を減額できるものです。

所得を相殺しきれなかった場合にも翌年以降3年間の繰越控除が認められるところも同様です。

この特例を受けるための条件は国税庁「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」を確認しましょう。

4.譲渡所得税の計算方法

譲渡益または譲渡損失

譲渡所得税を計算するためには、譲渡所得から控除の特例を受けられるならば控除額を差し引き、税率を掛ければ算出できます。

譲渡所得と合わせると以下の計算式です。

譲渡所得税 ={売却価格 -(取得費 - 減価償却費) - 譲渡費用 - 控除費用}× 税率

譲渡所得や取得費、減価償却、控除費用については先述したとおりですが、譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって異なる2種類(軽減税率も含めると3種類)あります。

所得税 住民税 復興特別所得税 合計
所有期間5年以下
(短期譲渡所得
30% 9% 0.63% 39.63%
5年を超えて保有
(長期譲渡所得)
15% 5% 0.315% 20.315%

出典:国税庁「長期譲渡所得の税額計算」

出典:国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」

復興特別所得税とは令和19年(2037年)まで課税される所得税で、すべての納税者が各年分の所得税の2.1%が課税されます。

なお、所有期間5年以下の税率は「短期譲渡所得」、5年を超えて保有していた場合の税率は「長期譲渡所得」と呼ばれています。

5.不動産を売却した際の譲渡所得税のシミュレーション

譲渡益または譲渡損失

それでは、不動産を売却した場合、所有期間5年以下の場合と5年超の場合とで、シミュレーションしてみましょう。

以下の条件を元に、譲渡所得税を計算していきます。

  • 売却価格:3,600万円
  • 譲渡費用:120万円
  • 取得費:3,180万円(内訳:土地1,680万円、建物1,500万円とする
  • 建物の詳細:木造2階建て、新築購入、住宅として使用
  • 築年数:短期所有は築5年、長期所有は築6年

5-1.【3,600万円の家】所有期間5年以下の短期で売却した場合の譲渡所得税

譲渡所得税を計算する場合、以下の手順で計算する必要があります。

  1. 減価償却費を計算する
  2. 譲渡所得を求める
  3. 譲渡所得税を計算する

まず、譲渡所得を求めるために、減価償却費を計算しなければなりません。

居住用の木造住宅は法定耐用年数が33年なので、償還率は0.031です(参考:国税庁「減価償却資産の償却率等表」※平成19年4月1日以後取得定額法償却率)。

この償還率を建物価格の1,500万円に掛け、経過年数を掛けると以下の計算結果になります。

減価償却費 = 1,500万円 × 0.031× 5年 = 232万5,000円

次に譲渡所得を計算します。

譲渡所得 = 3,600万円 -(3,180万円 - 2325万5,000円)- 120万円 = 771万5,000円

最後に譲渡所得に対し短期の税率を掛ければ譲渡所得税額が分かります。

税額 = 771万5,000円 × 39.63% = 3,057,454円

結果として、ちょうど5年目に不動産を売却した場合は「305万7,454円」の譲渡所得税を納税しなければなりません。

5-2.【3,600万円の家】所有期間5年以上の長期で売却した場合の譲渡所得税

条件は変わりませんが、売却のタイミングが1年違うとどれくらい税額が変わるのでしょうか。

計算方法は短期の場合と同じく、減価償却費、譲渡所得、譲渡所得税の順番で計算します。

減価償却費 = 1,500万円 × 0.031 × 6年 = 279万円

譲渡所得 = 3,600万円 -(3,180万円 - 279万円)- 120万円 = 819万円

税額 = 819万円 × 20.315% = 1,663,798円

時期が1年変わっただけで約139万円も納税額が減ることが、短期と長期の大きな違いと言えるでしょう。

なお、長期所有していたとしても、取得費が分からず概算取得費(5%)で計算した場合は、税額が大幅に増加するため注意が必要です。

譲渡所得 = 3,600万円 - 180万円(売却価格の5%)- 120万円 = 3,300万円

税額 = 3,300万円 × 20.315% = 6,703,950円

この記事のポイント

譲渡所得とはなにか?

不動産を売却した際に発生する利益を譲渡所得と言います。
詳しくは「1.譲渡所得とは?」をご覧ください。

譲渡所得はどうやって計算するのか?

譲渡所得は、「譲渡所得 = 売却価格-(取得費 - 減価償却費)- 譲渡費用」で計算します。
詳しくは「2.譲渡所得の計算方法」をご覧ください。

譲渡所得や譲渡損失が発生した場合に節税はできる?

特例の条件を満たした場合、以下の控除特例が利用できる場合があります。

  • 3,000万円の特別控除の特例
  • 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した際の軽減税率の特例
  • 居住用財産の買い換え特例
  • 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
  • 居住用財産の買い替えで譲渡損失が発生した際の損益通算及び繰越控除の特例

詳しくは「3.譲渡益または譲渡損失が発生した場合に適用できる特例」をご覧ください。