40~50代にもなると、親の介護が始まる人たちが増えていきます。
まだ子供が大学を卒業しておらず、介護費用のねん出に頭を抱えている人も多いのではないでしょうか。
介護費用をねん出するために、親の家を売却することも、一つの方法です。
ただし、親名義の家は、自分の家ではないため勝手に売却することはできません。
親名義の家を売却するには、法律的な予備知識や事前準備も必要となってきます。
また、親名義の家を売却する場合には、税金にも注意が必要です。
親名義の家は購入当初の売買契約書も紛失していることが多く、過大な税金が発生する可能性があります。
さらに、親が老人ホームに入所する場合などで、売却のタイミングを逃してしまうと、それだけで税金が上がる可能性があるため、注意が必要です。
そこでこの記事では親の介護が必要となったときの家の売却について解説致します。
最後までお読みいただき、介護が必要になった際の家の売却の一助にしていただけると幸いです。
Contents
1. 子供が親の代理人として売却するには任意代理
介護といっても、本人にハッキリとした判断能力がある場合や、認知症などで本人の判断能力が無い場合など様々です。
この章では、「親である本人にハッキリとした判断能力がある場合」に子供が行う、家の売却や準備について解説します。
1-1.親名義の不動産売却の基本
子供であっても、親名義の不動産を別人格の子供が勝手に売ることはできません。
ただし、親の体が不自由で売却業務の対応が難しい場合など、子供が代理人として親の不動産を売却することは可能です。
子供が親の代理人となって、親の家を売却する場合を任意代理と呼びます。
親名義の不動産を売却するには、任意代理で売却するのが手続き的にも簡単かつ最適な方法です。
任意代理は親本人から委任状をもらうだけで、子供が代理人として売却することが可能となります。
裁判所の手続き等も一切不要です。
任意代理は、あくまでも親本人のために行う行為で、その効果は親本人に及びます。
具体的には、親の家を売却すると、売却代金の入金は親名義の口座に入ることになります。
介護費用を子供が負担している場合には、売却後は、一部を親の負担に変える等の変更も必要となってきます。
1-2.任意代理による売却の注意点
任意代理を利用できるのは、あくまでも親本人が認知症ではない場合のみです。
親が認知症となってしまうと、任意代理が使えないため、注意が必要です。
任意代理は、例えば本人がケガで入院中や海外転勤中などで、本人が売買契約にどうしても立ち会えないような状況を想定して存在する制度になります。
親が既に老人ホームに入所してしまい、意識は健全であるものの、外出が困難という場合に適している制度です。
任意代理では、通常、不動産会社などが親本人のところまで出向き、一度、意思確認を行います。
任意代理は代理人が詐欺で悪用するケースもあるため、本人の意思確認は必ず必要なステップになります。
本人の意思確認を行った際、親が既に認知症となっている場合や、実は売却するつもりが全くない場合には、任意代理を使うことができません。
任意代理は、あくまでも親の意思能力が健全な状態のときに限るということを理解しておきましょう。
2.任意後見制度と法定後見制度
2-1.親の認知症に備えるなら「任意後見制度」
任意後見制度とは、親の判断能力が健全なうちに、財産の管理等について、あらかじめ定めた代理人に委託することができる制度です。
前節の任意代理は、親が認知症となってしまった場合には、利用することができません。
そのため、親が認知症となった場合に、将来、家族が代理人として売却できるようにしておく制度が任意後見制度となります。
例えば、親が老人ホームに入所した場合、親がすぐには家を売却したがらないようなケースがあります。
このようなケースでは、放っておくといずれ親が認知症となってしまい、将来スムーズに売却できなくなるような事態も発生します。
任意後見制度の準備をしておけば、後で親が認知症となったとしても、その際に代理人になることができます。
ただし、任意後見制度は、親の意思能力が健全なうちに、公正証書によって任意後見契約を締結しておく必要があります。
親が認知症となることを前提にした契約であるため、親も子供も双方、任意後見のことを言い出しにくいという難しさがあります。
家の売却は、親の意思が健全なうちに、任意代理で行うのが一番スムーズですが、親が家の売却に納得しない場合には、将来に備えて任意後見契約しておくのが良い対策です。
親が家の売却を承諾しない場合は、「第3章 家の売却はタイミングが重要」に示すように、売却のタイミングを逃すと税金が高くなる可能性があることも説得材料の一つとしてご利用ください。
まずは、介護で家の売却が必要となったら、親の意思が健全なうちに早急に任意代理で売却できないか検討することが重要となります。
2-2.親が認知症になってしまったら「法定後見制度」
任意代理で売却できず、かつ、任意後見制度の準備ができないまま親が認知症となってしまうこともあります。
親が認知症となってしまった場合には、法定後見制度を利用することになります。
法定後見制度とは、本人の認知能力の程度に応じて、「成年被後見人」、「被保佐人」、「被補助人」と分けた上で、家庭裁判所によって選ばれた「成年後見人」、「保佐人」、「補助人」に代理権や、本人の行った法律行為に対する同意および取消権を与える制度です。
法定後見制度を利用すれば、親が重度の認知症になった場合でも、成年後見人等が代理人となって親名義の家や土地を売却することが可能です。
ただし、法定後見制度では、弁護士等が裁判所から成年後見人等の法定代理人として選任されることになり、家族が代理人となることは原則できません。
家の売却も、自分たちならもう少し頑張って高く売れるはずだと思っても、法定代理人の弁護士が機械的に安く売却してしまうようなこともあり得ます。
そのため、家族にとっては法定後見制度よりも任意後見制度の方が自由度は高く利用しやすい制度です。
順番としては、まずは任意代理での売却を検討し、それが駄目なら任意後見制度を検討し、それでも駄目なら最終的に法定後見制度を利用するという順番で考えるのが良いでしょう。
3.家の売却はタイミングが重要
介護による家の売却では、親が老人ホームに入所した後に売却するような場合もあります。
老人ホームの入所後に売却する場合は、タイミングが重要になります。
そこでこの章では家の売却のタイミングについて解説します。
3-1.売却で発生する税金
不動産を売却した場合、原則としては以下の式で表される譲渡所得がプラスとなった場合、所得税および住民税、復興特別所得税が発生します。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
譲渡価額は売却額のことです。
取得費は、土地については購入額、建物については購入額から減価償却費を控除した価額になります。
譲渡費用は売却に要した費用です。
仲介手数料や測量費が譲渡費用に該当します。
取得費が分からない場合は、概算取得費というものを用います。
概算取得費とは、譲渡価額の5%です。
概算取得費を用いた場合の譲渡所得は、以下のように計算されます。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
= 譲渡価額 - 概算取得費 - 譲渡費用
= 譲渡価額 - 譲渡価額×5% - 譲渡費用
= 譲渡価額 × 95% - 譲渡費用
概算取得費を用いてしまうと、譲渡所得が大きくなってしまいます。
親の家を売却する場合には、まずは取得費が分かる資料があるかどうかを確認することが重要です。
また、税率に関しては所有期間によって異なり、所有期間が5年以下であれば短期譲渡所得、所有期間が5年超であれば長期譲渡所得と呼ばれます。
所得の種類 | 所有期間 | 所得税率 | 住民税率 |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% |
復興特別所得税については、所有期間に関わらず所得税額に対して2.1%の税率で発生します。
親が家を5年以上持っている場合には、長期譲渡所得の税率が適用されることになります。
3-2.土地の取得費が分からない家は要注意
親の家は、古くから建っているため取得費が分からないケースがあります。
取得費が完全に分からない場合は、概算取得費を用います。
一方、親の家では注文住宅で建築した場合など、建物の取得費が分かっていても、土地は先祖代々から受け継いだものであるため、土地だけ取得費が分からないといったケースも存在します。
この際、土地の取得費は、譲渡価額から建物取得費を控除したものに5%を乗じたものが取得費となります。
土地の取得費 = (譲渡価額 - 建物取得費) × 5%
取得費 = 土地の取得費 + 建物取得費
= (譲渡価額 - 建物取得費) × 5% + 建物取得費
= 譲渡価額×5% + 建物取得費×95%
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
= 譲渡価額 - 譲渡価額×5% - 建物取得費×95% - 譲渡費用
= 譲渡価額×95% - 建物取得費×95% - 譲渡費用
建物取得費は、建物購入額から減価償却費を控除した価額となります。
減価償却費は以下の式で計算されます。
減価償却費 = 建物購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
ただし、減価償却費の最大額は建物購入額の95%までとなります。
耐用年数と償却率は、以下の通りです。
建物構造 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
木造 | 33年 | 0.031 |
軽量鉄骨 | 40年 | 0.025 |
鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 |
例えば、木造戸建て住宅で築40年以降の木造戸建て住宅であれば、建物取得価格の5%が建物取得価格となります。
ここで、以下の条件で減価償却費が償却限度額(建物購入額の95%)を超えた家の譲渡所得を計算してみます。
譲渡価額 | 3,000万円 |
---|---|
土地購入額 | 不明 |
建物購入額 | 2,500万円 |
構造 | 木造 |
築年数 | 築40年 |
譲渡費用 | 96万円 |
減価償却費 = 建物購入額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
= 2,500万円 × 0.9 × 0.031 × 40年
= 2,790万円 > 2,375万円(=2,500万円×95%)
減価償却費は建物購入額の95%を超えていることが判明しました。
まず、建物取得費は、以下のように計算されます。
建物取得費 = 建物購入額 × 5%
= 2,500万円 × 5%
= 125万円
土地の取得費が不明な場合の譲渡所得の計算式を用いると、譲渡所得は以下のようになります。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
= 譲渡価額×95% - 建物取得費×95% - 譲渡費用
= 3,000万円×95% - 125万円×95% - 96万円
= 2,850万円 - 118.75万円 - 96万円
= 2,635.25万円
土地の取得費が分からず、かつ償却限度額(建物購入額の95%)を超えているような住宅の場合には、譲渡所得が非常に大きくなってしまうことが分かります。
長期譲渡所得なら、上記譲渡所得の約2割(所得税率15%、住民税率5%)が税金として課税されることになります。
3-3.「3,000万円特別控除」とは
親の家が居住用財産と呼ばれる住宅に該当する場合、3,000万円特別控除という特例を適用することができます。
3,000万円特別控除を適用すると、譲渡所得は以下の計算式で計算されます。
譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円
例えば、前節の例では譲渡所得が2,635.25万円でしたが、3,000万円特別控除を適用できると譲渡所得がマイナスとなるため、所得税等の課税は発生しません。
3,000万円特別控除の効果はとても大きいため、土地の取得費が分からないような家を売却する場合には、3,000万円特別控除を意識することが重要です。
3-4.注意点は転居してから3年以内に売ること
3,000万円特別控除は居住用財産と呼ばれるマイホームのみに適用することが可能です。
居住用財産とは、以下のような定義のマイホームを指します。
- 現に居住している家屋やその家屋と共に譲渡する敷地の譲渡の場合
- 転居してから3年後の12月31日までに、居住していた家屋やその家屋と共に譲渡するする敷地の譲渡の場合(この間に貸付や事業用に供していても適用となる)
- 災害などにより居住していた家屋が滅失した時は、災害のあった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、その敷地だけ譲渡する場合
- 転居後に家屋を取り壊した場合には、転居してから3年後の12月31日までか、取壊し後1年以内か、いずれか早い日までに譲渡する場合(取壊し後にその敷地を貸し付けたり、事業の用に供したりすると適用外となる)
ここで、注目すべきは「2.」の要件です。
親が介護で老人ホームに入所した場合、入所後、しばらくしてから介護費用を捻出するために親の家を売却することがあります。
しかりながら、親が老人ホームへ転居してから3年後の12月31日を過ぎた後に売却してしまうと、居住用財産の要件を満たさなくなってしまいます。
介護費用のねん出のために売却を行ったにも関わらず、タイミングを逃したばかりに約2割の税金が発生しかねません。
この特例の要件を知っているかどうかで、無駄に税金を払わなくても済むことになります。
介護で親が老人ホームに入所してしまった場合には、転居してから3年後の12月31日までに売却することを強くおススメします。
4.売却の開始
任意代理等、家の売却に親の了解を取ることができたら、早速、売却の開始です。
売却時には家が空の状態となっていることが必要ですので、家財道具等の処分も念頭に入れておいてください。
ゴミ処分専門企業のサービスを利用するという方法もあります。
介護で家を売却する場合も、住み替えなどと同様に、最初に査定を依頼することが始まりになります。
家の査定は「不動産売却HOME4U(ホームフォーユー)」の一括査定サービスの利用が便利です。
一括査定サービスは「名義人の家族・親族」や「 物件所有者の了承を得た代理人 」も査定の依頼ができます。
査定の理由にも「所有者が高齢」というチェック欄がありますので、安心してご利用ください。
介護による家の売却は、親子だからこそ言い出しにくい話題でもあります。
不動産会社は親子の間にもスッと入ってきてくれる親切な営業マンがいる会社が望ましいです。
一括査定サービスでは、最大6社に査定を依頼することができます。
査定額だけにとらわれず、親切に対応してくれる営業マンがいる不動産会社を選ぶのが良いでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
介護による家売却について解説してきました。
親がまだ認知症になる前であれば、任意代理による売却が可能です。
将来の認知症に備えるのであれば、任意後見制度を利用するのがおススメとなります。
また親の家を売却するのであれば、税金も考慮する必要があります。
まずは取得費が分かる資料の有無を確認するようにしてください。
3,000万円特別控除を適用するのであれば、転居してから3年後の12月31日までの売却が必要となります。
介護費用のねん出のためにも、節税を考慮し、無駄なく売却するようにしましょう。
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