
「抵当権抹消」(ていとうけんまっしょう)という言葉を耳にしたことがありますか?
抵当権抹消とは、不動産に設定された抵当権を消すことです。
抵当権とは、金融機関が住宅ローンを貸すとき、万が一お金が回収できない場合のため、担保として不動産を確保しておくことをいいます。
抵当権が設定されると、不動産登記簿謄本にお金を借りた人(債務者)や貸主(抵当権者)、期日や金額が記載されます。
住宅ローンを払い終われば当然抵当権はなくなるのですが、お金を借りていた金融機関が不動産登記簿謄本から消してくれるわけではありません 。やり方を詳しく教えてくれるわけでもないのです。
もし、抵当権がついたままだと、登記簿上はローンをまだ返済していないとみなされ、いろんなデメリットがあるため、必ず抹消手続きをしておきましょう。
手続きは、司法書士にお願いもできますが費用がかかります。(5,000〜15,000円+交通費など)
時間がある方は簡単にできるため自分で行ったほうが得なのでおすすめします。
そこでこの記事では、
- 抹消を行わない場合のデメリット
- 自分で簡単に行うための手続き方法
をご紹介します。
Contents
1.抵当権の抹消を行わない場合の2つのデメリット
- 手続きをしないと売却する時に不利
- 他のローンの審査にとおりにくくなる
ではひとつずつ詳しく見ていきましょう。
1-1.手続きをしないと売却する時に不利
住宅ローンを完済すれば抵当権の効力もなくなるので、わざわざ手続きをしなくてもいいのでは?と思われるかもしれません。
しかし家を売却する場合や、不動産を担保にして新たなローンを借りる場合は、原則として抵当権を消しておく必要があります 。
登記簿上で物件に抵当権がついていたら、買い手側からするとそれが完済されたかどうかが判断できません。「完済した」と説明しても、書類上は抵当権がついたままだと信頼性も乏しくなります。抵当権がついたままでは買主がローンを組めないなどの不利益があるので、抹消手続きをしておきましょう。
売却する物件に住宅ローンが残っている場合は、残債を精算し抵当権を抹消してから、買主に引き渡します。
売買の際は抵当権抹消に加えて、所有権移転の手続きを行う必要があるので、専門家である司法書士に依頼したほうが確実でしょう。
1-2.他のローンの審査にとおりにくくなる
抵当権がついたままだと、「登記の流用」と判断されてしまう恐れがあります。これは住宅ローンを完済していても、別のローンにこの登記の状態を利用している といったことです。信用問題にもなることなので、すっきり抹消しておきましょう。
2.自分でできる抵当権抹消手続き
2-1.抵当権抹消手続きを自分で行う場合の流れ
それでは初めに、抵当権抹消手続きの流れを確認しておきましょう。
このように必要書類を揃え、法務局に申請する必要があります。
司法書士に手続きを依頼することもできますが、必要書類を準備すれば自分たちでも簡単に行えます。先ほどの手続きをもう少し詳しく説明すると、下図のような流れとなります。
では実際にどんな手続きになるのか段階ごとに見ていきましょう。
- (1)金融機関から手続きに必要な書類が届く
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①抵当権解除証書または弁済証書
抵当権を解除したという証明書類です。②抵当権設定契約証書(登記済証)
登記済という赤い印が押されています。③代表者事項証明書または登記事項証明書
金融機関の証明書となります。④委任状
抵当権抹消手続きに金融機関が立ち会わなくてもよいための書類です。
代理人の欄に、自分(所有者)の住所・氏名を書きます。
日付の空白は解除証書の通り記載しておきます。
- (2)申請先の法務局を調べる。
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所有する物件の所在地により、法務局の管轄が決まっています。まずはどこになるのか法務局のサイトで調べておきましょう。
- (3)書類を準備する
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(1)の金融機関から届いた書類と登記申請書を準備します。
抵当権抹消登記申請書の作成
抵当権抹消登記申請書のフォーマットは、法務省のサイトにあります。
「13. 抵当権抹消登記申請書」が該当のフォーマットになるので、使いやすいものを選らんでダウンロードしてください。
申請書はすべて手書きにしても問題ありません。
申請書の内容の説明、注意点を以下にまとめました。ダウンロードした申請書と照らし合わせてご覧ください。
登記の目的
目的は抵当権の抹消になるので「抵当権抹消」と書きましょう。 ︎
抹消する登記
抵当権を設定したときの受付年月日、受付番号を記載します。
原因
完済して抵当権が消滅した日とその原因を記載します。金融機関から送られてきた抵当権設定契約解除証書に「○年○月○日解除」とあります。解除が「弁済」「解約」となっている場合もあり、その通りに記載します。 ︎
権利者
現在の所有者の住所・氏名・を記載します。登記事項証明書の内容と一致している必要があります。違っている場合は、変更する登記が別途必要です。 ︎
義務者
金融機関の所在地・商号・代表者名を書きます。登記事項証明書と異なる場合は、変更の経緯がわかる法人の登記事項証明書が必要です。
添付情報
金融機関から送られてきて今回一緒に出す書類を明記します。
登記識別情報を提供することができない理由
もし金融機関が準備できていなくて登記識別情報(登記済証)を用意できない場合は、その理由にチェックをします。この場合は金融機関の印鑑証明書が必要です。
申請する日付、管轄の法務局の名称
それぞれ記載します。 ︎
申請人兼義務代理人
所有者である登記名義人の住所・氏名を記載します。認印が必要です。 平日の昼間に連絡のつきやすい電話番号も記載しておきます。
登録免許税
土地、建物それぞれ1件で合計2,000円などとなります。物件によって違います。
不動産の表示
登記事項証明書に記載されている通り、それぞれの項目ごとに書きます。 不動産番号は表記されていないものもあります。以下の内容が必要になります。一戸建てとマンションそれぞれ内容が変わるので注意が必要です。
一戸建ての場合(戸建て土地の内容)
- 所在
- 地番
- 地目
- 地積
(戸建て建物の内容)
- 所在家屋番号
- 種類
- 構造
- 床 面 積
マンションの場合(マンション等の敷地権付区分建物 / 建物の番号あり)(一棟の建物の表示)
- 所在
- 建物の番号
(専有部分の建物の表示)
- 家屋番号
- 建物の番号
- 種類
- 構造
- 床面積
(敷地権の表示)
- 所在及び地番
- 地目
- 地積
- 敷地権の種類
- 敷地権の割合
以上の内容を書き終わったら、見直して添付書類とセットしておきましょう。わからないところは空けておき、提出前に法務局の相談コーナーで確認してから記入したほうが安心です。
- (4)法務局へ申請に行く
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法務局の受付時間は月曜日〜金曜日の午前8時30分〜午後5時15分。
抵当権抹消の書類の書き方がわからないときは相談窓口が利用できます。相談は事前予約制のところもあるので、事前にホームページで確認、必要であれば予約をしてから出かけましょう。
郵送でも提出できますが、書き方がわからない場合は直接行って相談したほうが安心です。
- (5)完了後は書類を受け取りに行く
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登記完了日がいつかを確認しておきます。補正があれば再度出向いて、指示のもとに手直ししますが、その際は登記申請書に押した印鑑をお忘れなく。補正がなければ登記は無事完了です。登記完了日以降に法務局へ完了後の書類を引き取りに行きます。
受領時に本人以外の家族が出向く場合 は登記申請書に押した印鑑と、委任状、受け取る人の本人確認書類が必要です 。
2-2.これだけかかる手続き費用のまとめ
○登録免許税
法務局で収入印紙を購入し、A4サイズの用紙に貼り付けて支払います。
不動産1件につき1,000円
土地と建物で通常は1,000円+1,000円=2,000円(土地が複数件に分かれている場合はその件数分必要になります)
ひとつの土地でも複数に分かれていることがあります。抵当権設定契約書の「物件の表示」の欄を確認します。
たとえば、敷地権の表示が2つに分かれていたら2件となります。
敷地権2件と専有部分の建物1戸で2,000円+1,000円=3,000円
○登記事項証明書
登記申請書を作成するにあたり、登記簿の内容を確認しておく必要があります。登記簿の内容を示したものが登記事項証明書です。
不動産1件につき600円(書面請求)
オンラインによる請求や交付もあります。
上記を利用するとオンライン請求・普通郵便にて送付、受け取りの場合500円、オンライン請求・窓口受け取りで480円になります。(50枚超50枚までごと100円加算)
2-3.本人や家族が出向くか、忙しい人は司法書士に依頼
基本は登記する本人が法務局に出向いて手続きをしますが、夫の名前で登記する際に妻が代理で手続きするときは、妻への委任状を作成し持参する必要があります。
文面は「抵当権抹消登記申請および、手続きの一式を○○○○(妻の名前)に委任します」といったものでいいでしょう。委任された家族は、自身の免許証や保険証などの本人確認書類を持参 します。
法務局の業務取扱は平日のみです。忙しくて平日に時間が取れない人や、複数の金融機関からローンを借りている場合、相続とも関わりがあるときなどは手続きが多くなるので、司法書士に任せたほうがスムーズなこともあります。
登録免許税などの費用に加えて、司法書士への報酬が追加となります。
司法書士の報酬は抵当権抹消1件あたり5,000〜15,000円ですが、複数の金融機関からローンを借りている場合、状況によって加算されることになります。交通費や通信費がかかることもありますので事前に確認が必要です。
3.抵当権抹消手続きの注意点
3-1.早めに行わないと必要書類が期限切れに
抵当権抹消手続きは、いつまでに行わないといけないといった期限はありませんが注意が必要です。
住宅ローンを完済すると金融機関から、借用書である金銭消費貸借契約書、抹消登記に必要な書類などが送られてきます。その中には有効期限が発行日から3カ月という代表者事項証明書もあるのです。
忙しくてついつい放っておくと、金融機関から送られてきた書類が期限切れで使えなくなったり 、そもそも金融機関名が合併などを理由に変わったり することもあります。
また書類自体を紛失してしまうこともあり得ます。書類の中には再発行できないものもあり、もしなくしてしまうと特別な手続きが必要となります。この場合、自分たちではできず、司法書士に相談することになり、余分な費用が発生してしまうのです。
金融機関から書類をもらったらなるべく早く抵当権抹消手続きを行って、名実ともにローンを完済したことにしたほうが安心といえます。
3-2.手続きは物件の所在地の法務局で
抵当権抹消登記を申請するのは法務局です。不動産の所在地によって管轄が決まっているので、事前に調べておきましょう。
地図や法務局一覧から探せるようになっています。
4.まとめ
住宅ローンを完済したとき、家を売却する際には、登記簿に書かれてある抵当権を抹消しておく必要があります。
手続きをしないで放っておくと、売却に不利になったり、「いざ抹消」と思った時には必要書類が期限切れになったりしてしまいます。また所有者の信用問題になるなど、さまざまなデメリットがあるので注意が必要です。
金融機関から送られてくる書類には有効期限があるものもあるので、なるべく書類到着から1〜2カ月以内に行うほうが望ましいといえます。
せっかくローンを完済したのなら、速やかに抵当権を抹消し、後々に支障が残らないよう、スッキリさせてしまいましょう!