法人の不動産売却時の税金は?個人との違いや仕組みを解説|節税方法も紹介

法人で不動産売却をする際の税金がいくらかかるか気になっていませんか?
法人での不動産売却時に課される税金のことを詳しく知っていると、個人で売却するよりも節税になるケースがあります。

この記事では、法人が不動産売却する際の税金の仕組み、不動産売却時の節税方法、注意点などについて解説します。この記事を読むことで、法人としての売却活動をスムーズに進められるでしょう。

簡単60秒入力
あなたの 不動産 いくらで売れる?
STEP1
STEP2

1.法人が不動産を売却する際の税金の仕組み

法人が不動産を売却する際の税金の仕組み
不動産を売却する場合は、個人で売却する場合も法人で売却する場合も同様に税金がかかります。しかし、個人で売却せずに法人化して売却することによって、節税になるケースがあります。

まずは法人の不動産売却で税金がどのくらいかかるかを見ていきましょう。

1-1.法人税の仕組み

法人も開始事業年度ごとに得られた所得に対して法人税が課されます。法人税は、所得金額に以下の税率を使用して算出します。

平成28年4月1日~ 平成30年4月1日~ 平成31年4月1日~ 令和4年4月1日~
資本金1億円以下の法人
(年800万円以下の所得)
15% 15% 15%
(適用除外事業者:19%)
15%
(適用除外事業者:19%)
資本金1億円以下の法人
(年800万円超の所得)
23.40% 23.20% 23.20% 23.20%
資本金1億円以上の法人 23.40% 23.20% 23.20% 23.20%

参照:国税庁「No.5759 法人税の税率

上記の適用除外事業者とは、その事業年度開始の前日から3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均が15億円を超える法人を指します。適用除外事業者にあてはまった場合、軽減税率が適用されず税負担が大きくなるというデメリットがあります。

1-2.個人と法人で異なる不動産売却の3つのポイント

不動産売却の課税の仕組みは個人と法人では一部異なります。そのため、適切に納税するためにも、個人と法人で異なる不動産売却の3つのポイント押さえておくことが大切です。

  1. 当期純利益が課税対象
  2. 不動産会社以外の固定資産の売却は特別損益
  3. 損失は繰越欠損金として10年間有効

それぞれのポイントを詳しく説明していきます。

1-2-1. 当期純利益が課税対象

個人の不動産売却が譲渡所得に該当する場合、分離課税所得が適用されるため、不動産の売却益は給与所得とは別に税金が計算されます。

会社が不動産を売却した場合は、個人のような分離課税所得ではなく、すべてを合算して算出される前の当期純利益に対して課税されます。

不動産売却を含む事業全体の利益に対して課税されるのが特徴です。

1-2-2. 不動産会社以外の固定資産の売却は特別損益

不動産会社の場合は、日常的に不動産の売買が行われるため、売買によって得た利益は経常利益として加算されます。

しかし、不動産会社以外の企業では不動産の売却が頻繁に行われることはありません。企業のイレギュラーな活動で生じた収益として扱われるため、特別利益または特別損失として計上されます。

つまり、不動産会社以外の企業が固定資産を売却する際は、却価格が購入時の価格よりも高いと特別利益、低いと特別損失として計上されるのです。

1-2-3.損失は繰越欠損金として10年間有効

法人は不動産の売却で生じた損失を翌事業年度以降の黒字から控除できる「繰越欠損金」という制度を利用できます。個人よりも長い10年間も利用できます。

一方、個人が不動産を売却して譲渡損失が発生した場合においても、その損失の金額を他の土地や建物の譲渡所得の金額から控除することが可能です。しかし、所有期間が5年を超える居住用財産を譲渡した場合の損失の控除は翌年以降3年間しか繰り越せません。

1-3.法人の不動産売却で税金がお得になるケース

個人が居住用不動産を売却する場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下であれば短期譲渡所得として39.63%、5年超であれば長期譲渡所得として20.315%の税金が課されます。

資本金1億円以下の普通法人の法人税の税率は23.2%となっており、所有期間が5年以下のケースでは法人として不動産を売却した方が税金がお得です。

項目 税率 1,000万円の利益が出た場合の利益
個人短期譲渡所得39.63%603万7,000円
長期譲渡所得 20.315% 796万8,500円
法人 資本金1億円以下の普通法人の法人税 23.2% 768万円

ただし、居住用財産(マイホーム)を売却する場合、個人であれば「3,000万円の特別控除を利用できる」、「所有期間が5年超だと個人の方が税率が低い」などのようにお得にならないケースもあるので注意してください。

1-4.法人の不動産売却日

個人の場合は売却された不動産を引き渡した日を売却日とするのに対し、法人の場合は売買契約締結日を売却日として考えることもあります。

法人が不動産売却で支払う税金を算出する際、購入から売却日までの減価償却類型額の計算を含むため、売却日がいつになるのかという定義を把握しておくことが大切です。契約日と引き渡し日で事業年度が変わってしまうようなケースでは、契約日を基準にした方が税金を安く抑えられるでしょう。

ただし、売却するのが土地のみの場合には、代金の半金を受領した日、所有権移転登記の申請日のいずれか早い方を適用するので注意が必要です。

2.法人でできる不動産売却時の節税方法

法人でできる不動産売却時の節税方法
法人の不動産売却時には節税も可能です。

法人でできる不動産売却時の節税方法として、以下の3つが挙げられます。

  1. 新規物件の購入
  2. 不動産売却による課税所得の分散
  3. 特別償却できる設備投資

それぞれの節税方法を詳しく見ていきましょう。

2-1. 新規物件の購入

新規に物件を購入することで、時間の経過や使用とともに物件の価値が減少する前提に基づく減価償却費を経費として計上できるようになります。
個人の場合は譲渡所得を他の所得と通算できませんが、法人の場合はすべての所得と通算できるので、利益を減らすことにより法人税を抑えることが可能です。

耐用年数の長い鉄筋コンクリート造と比べて、耐用年数の短い木造や軽量鉄骨増の方が1年に計上できる経費が増えるため、高い節税効果が期待できます。

2-2. 不動産売却による課税所得の分散

個人は譲渡所得と他の所得を通算できませんが、法人はすべの所得と通算できます。
例えば、不動産売却で大きな利益が出た場合に、その利益を役員退職金として支給するという方法が挙げられます。退職所得に対する税金の計算式および退職所得控除額の計算式は以下の通りです。

  • (退職金-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
  • 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

このようにうまく他の所得に分散できれば、法人に対して課税される法人税を抑えられるでしょう。

2-3. 特別償却できる設備投資

特別償却とは、減価償却資産の購入費用に対してさらに減価償却費を上乗せできる仕組みです。具体的な設備として、以下のような設備が挙げられます。

  • 最新モデルまたは生産性の向上を年平均にして1%以上向上させる最新設備(A類型)
  • 生産ラインやオペレーションの改善に関する設備(B類型)

参照:中小企業庁「経営強化法による支援

A類型はメーカーから証明書をもらう必要があります。B類型は投資計画を作成して公認会計士や税理士の確認を受けてから経済産業局への申請が必要です。

3.法人の不動産売却時の税金で注意すべきなのは消費税

法人の不動産売却時の税金で注意すべきなのは消費税
法人が不動産を売却する際は、個人の売却ではかからない消費税がかかるので注意しなくてはなりません。

不動産売却における消費税の扱いを詳しく説明していきます。

  • 建物には消費税が課せられる
  • 個人は土地建物とも消費税が課されない

3-1.建物には消費税が課せられる

建物は消費するものと考えられるため、消費税の課税対象となります。土地と一緒に売却する場合は、建物部分に限って消費税が課されます。土地が非課税となる理由は、土地は消費されるものではないためです。

3-2.個人は土地建物とも消費税が課されない

土地は消費されるものではないため、個人・法人ともに消費税が課されません。しかし、個人の場合は建物も消費税が課されません。その理由は、個人が建物を居住目的で使用しているためです。
参照:国税庁「No.3240 事業用建物等を譲渡した場合の消費税」「No.6931 消費税等と譲渡所得

そのため、個人と法人を比較すると法人の方が消費税の負担が大きくなります。
ただし、賃貸経営のように事業用として所有している場合、個人でも消費税の課税対象となるので注意してください。

4.法人の不動産売却で必要な経費の考え方

法人の不動産売却で必要な経費の考え方
法人が不動産を売却する際は、経費の考え方についての理解を深めておくことが大切です。

法人が不動産を売却したときの仕訳について、以下のケースでシミュレーションを行ってみましょう。

  • 売却価格:4,000万円
  • 手付金:400万円
  • 土地の価格:1,000万円
  • 建物の価格:2,800万円
  • 期首からの減価償却費:200万円

4-1. 契約時の仕訳

売買契約時は借方に普通預金400万円、貸方に前受金400万円という仕訳を行います。

前受金とは、引き渡しが完了する前に受け取った金銭のことです。今回のケースでは、売買契約時に買主から受け取った手付金の400万円を前受金として計上することになります。

4-2.売却時の処理と仕訳

建物の減価償却を行わなくてはなりません。
売却した年の期首日から売却日までの減価償却費は200万円です。
したがって、この減価償却で建物価格は2,800万円から200万円を引いた2,600万円となります。

売却時の仕訳は以下の通りです。

土地 1,000万円
建物 2,600万円
固定資産売却益 400万円
合計 4,000万円

売却時の仕訳で前受金の精算を行います。また、不動産売却による利益を固定資産売却益として差額分を計上します。

4-3.消費税は建物のみ

法人が不動産を売却する際は、消費税のことも考慮しなくてはなりません。消費税の課税対象となるのは建物部分のみですが、建物部分の金額が大きいと課される消費税が大きくなるので注意が必要です。

例えば、土地価格1,000万円、建物価格3,000万円の不動産を売り出す場合は、建物価格に消費税を反映した3,300万円に土地価格を上乗せした4,300万円(税込)が正式な売り出し価格となります。

この記事のポイント まとめ

法人が不動産を売却する際の税金の仕組み

法人が不動産を売却する際の税金の仕組みは以下の通りです。

  • 法人には事業年度ごとに得られた所得に対して法人税が課税される
  • 当期純利益が課税対象(法人)
  • 固定資産の売却は特別損益(法人)
  • 損失は繰越欠損金として10年間有効(法人)

詳しくは「1. 法人が不動産を売却する際の税金の仕組み」をご覧ください。

法人でできる不動産売却時の節税方法

法人でできる不動産売却時の節税方法は以下の通りです。

  • 新規物件の購入
  • 不動産売却による課税所得の分散
  • 特別償却できる設備投資

詳しくは「2.法人でできる不動産売却時の節税方法」をご覧ください。

法人の不動産売却時の税金で注意すべきなのは消費税

法人の不動産売却時の税金で注意すべき点は以下の通りです。

  • 建物には消費税が課せられる
  • 個人は土地建物とも消費税が課されない

詳しくは「3.法人の不動産売却時の税金で注意すべきなのは消費税」をご覧ください。

法人の不動産売却で必要な経費の考え方

法人の不動産売却で必要な経費の考え方は以下の通りです。

  • 手付金を前受金として仕訳する(契約時)
  • 減価償却費を処理する(売却時)
  • 前受金の精算と利益を固定資産売却益として差額分を計上(売却時)

詳しくは「4.法人の不動産売却で必要な経費の考え方」をご覧ください。