
2024年(令和6年)の税制改正は、節税対策でタワーマンションを購入する方に影響を与える可能性があります。
これまで有効だった節税方法がどのように変わるのか、多くの方が不安を抱えているのではないでしょうか。
そこでこの記事では、タワーマンション節税の仕組みや計算例、改正後の対策について解説します。
住み替えでマンションの売却を考えている方は『マンション売却で失敗・大損しないための注意点や流れ』『マンション売却にかかる税金』も併せてご覧ください。
また、マンション名から相場を調べたい場合は「マンションの売却相場を調べる」の記事もご覧ください。
Contents
1.タワーマンション節税とは?
タワーマンション節税とは、主に相続税の負担を軽減するために、タワーマンションを購入・保有する手法です。
「購入価格に比べて、税金算出に扱う評価額は低くなる」というタワーマンションの特性を利用して節税を図ります。
以下では、タワーマンション節税をより深く理解するために、順を追って解説していきます。
1-1.タワーマンションを利用した相続税対策のこと
「タワーマンション節税」というと、基本的には、タワーマンションを利用した相続税の節税方法を指しています。
現金を相続するよりも、タワーマンションの一室を購入して相続した方が相続税を大幅に低くできるため、財産が多い方の節税対策として活用されています。
節税の仕組みについて詳しくは2章で解説しますが、簡単にいうと、現金よりも同価格のタワーマンションの方が相続における価値(相続税評価額)が低いため、節税ができます。
マンションの市場価値は、基本的に高層階になるほど高くなり、タワーマンションの超高層階はより顕著に市場価値が高まります。
一方で、タワーマンションは総戸数が多いため一人当たりの土地の持分が少なく、相続税評価額も低くなります。
大規模なタワーマンションかつ、上層階であるほど、市場価格と相続税評価額が大きく乖離します。
1-2.タワーマンションは固定資産税も有利
一戸建てや小規模マンションを所有しているよりも、同価格帯のタワーマンションを所有している方が、固定資産税を安くできます。
前項でも簡単に解説した相続税評価額の算定と同様に、タワーマンションでは一人当たりの土地の持分が極端に少ないため、固定資産税評価額も低くなります。
タワーマンションの市場価格よりも、固定資産税評価額は大幅に低く計算されやすいため、他の不動産を持つよりも固定資産税を安くできるのです。
しかし、2017年(平成29年)度の税制改正で、タワーマンションの固定資産税の計算方法に対して見直しが行われました。
これまでは、高さ60メートルを超える住宅用建築物に関しては、同じ面積であれば階層に関わらず固定資産税や都市計画税、不動産取得税が同じ税額でした。
新たに課税される住宅用建築物では、高層階になるほど税額が増え、低層階の固定資産税は軽減されることになりました。
ただし、2016年(平成28年)以前に完成している中古のタワーマンションには適用されないため、この場合は依然として節税が可能です。
2.タワーマンション節税の仕組み
ここでは、タワーマンション節税の仕組みと、実際にどの程度の節税ができるのか具体例を交えて解説します。
前提として、現在は区分所有建物における相続税評価額の計算方法が見直されています。
評価額補正の計算は少し難しいため、この章では従来のタワーマンション節税の仕組みについて解説します。
これがタワーマンション節税の基本であり、大枠を理解しやすくなります。
評価額の補正(税制改正)については3章で詳しく解説しているので、順にご覧ください。
2-1.相続税評価額が抑えられるため課税が少ない
相続税は、不動産の相続税評価額をもとに算出されます。
マンション一室の相続税評価額は、マンション全体の評価を基に算出されるため、高層階ほど時価に比べて評価額が極端に安くなる特徴があります。
まず、タワーマンションは総戸数が多いため、各住戸の土地の持分は少なく、土地の評価額が相対的に低くなります。
建物の評価については、専有面積に基づいて均等に割り当てられるため、階層による評価額の差はほとんどありません。
実際の市場価値は、高層階になるほど眺望や日当たりといった付加価値が高くなるため大幅に上昇します。
このため、時価と相続税評価額が大きく乖離するのです。
従来は、相続税評価額が時価の3割ほど、また3割以下の物件も見られました。
この場合、1億円で購入したマンションの相続税評価額が3,000万円程度になります。
「現金で1億円を相続する」のと「3,000万円のマンションを相続する」のでは、相続税額に差があるのは歴然です。
階層 | 市場価値 | 相続税評価額 | 市場価値と評価額の差額 | 節税効果 |
---|---|---|---|---|
低層階 | 7,000万円 | 2,500万円 | 4,500万円 | 小 |
中層階 | 8,500万円 | 2,800万円 | 5,700万円 | 中 |
高層階 | 1億円 | 3,000万円 | 7,000万円 | 大 |
上表、上図は簡単な例ではありますが、タワーマンションの高層階ほど節税効果が高いことが分かります。

具体的な節税額は?
3章で解説する評価見直しが起こる以前は、実際にどの程度の節税効果があったのでしょうか?
タワーマンション節税の効果を実際に理解するために、具体的な計算例を解説します。相続人は子1人と仮定します。
- 相続資産: 1億円
- 相続税評価額: 1億円
- 相続税率: 40%
- 相続税額: 4,000万円 – 控除額1,700万円 = 2,300万円
- 購入価格: 1億円
- 相続税評価額: 3,000万円(市場価値の約30%)
- 相続税率: 15%
- 相続税額: 450万円 – 控除額50万円 = 400万円
※相続税の速算表を元に計算
出典:「“No.4155 相続税の税率”.国税庁(参照2025-02-28)」をもとに、お家のいろはが独自に作成
この計算例では、現金で相続する場合の相続税が2,300万円であるのに対し、タワーマンションの高層階住戸を相続した場合の相続税は400万円となります。結果として、1,900万円の節税効果が得られることになります。
タワーマンションを利用した相続では、現金で相続するよりも大幅な節税効果を得ることが可能です。
2-2.小規模宅地の特例で相続税を抑えられる
小規模宅地の特例は、土地の評価額を最大80%まで減額できる制度です。
タワーマンションにおいても、この特例が適用できる場合があります。
特に相続人が住んでいた場合や、事業用の不動産として利用している場合などに有効です。
仮にご自身の持分に応じた土地の評価額が1,500万円だった場合、小規模宅地の特例を利用すると、評価額が最大で80%減額され、300万円の評価額となります。
このため、相続税が大幅に減少します。
2-3.3,000万円特別控除の特例で売却時の税金も少ない
3,000万円特別控除の特例は、居住用不動産の売却で生じる譲渡所得を最大3,000万円まで控除できる特例です。
売却で生じる譲渡所得(売却益)には譲渡所得税がかかります。
相続税を抑えられても、多額の譲渡所得がかかってしまっては、節税効果が高いとは言えません。
3,000万円特別控除が適用できれば、多くの場合で譲渡所得税もかかりません。
そのため、相続人はより多額の資産を手元に残せます。
3,000万円特別控除を適用するには、「所有者のマイホームの売却」か「相続人が生前一人で住んでいたマイホームの売却」である必要があります。
3.2024年1月:タワーマンション評価改正の内容
2024年1月に施行されるタワーマンションの評価改正によって、相続税評価額の計算方法に変更がありました。
この改正により、これまでよりも相続税評価額が市場価格に近づき、節税効果が薄れる可能性があります。
具体的な改正内容とその影響を解説します。
3-1.市場と乖離した評価額が補正される
2024年(令和6年)1月の改正により、時価と相続評価額の乖離が激しい場合、相続税評価額を補正して計算する様になりました。
これまで、タワーマンションの相続税評価額が時価の3割以下になるケースも多く、この乖離の大きさが問題視されていました。
評価乖離率(時価と相続税評価額の乖離率のこと)は、時価ばかりが高くなる高層階であるほど大きくなるため、階層に比例するように以下のように拡大しています。
特に総階数が20階以上のタワーマンションでは、評価乖離率が3.16倍に達しています。
出典: “相続税評価額と市場価格の乖離の実態”.国税庁.(参照2024-08-08)
今回の改正では、評価乖離率の逆数である評価水準(1 ÷ 評価乖離率)の値が、0.6以下の場合は、区分所有補正率をかけて相続税評価額を0.6まで補正する様になります。
評価水準0.6は、評価乖離率1.67に相当します。
これまでは、時価1億円のマンションが3,000万円程度で評価されることがありました。
しかしこれからは、同物件でも6,000万円程度で評価されるようになります。
そのため、タワーマンション節税の効果が大きく減少します。
3-2.区分所有補正率の計算方法
相続絵時評価額は「区分所有権の価額(建物)」と「敷地利用権の価額(土地)」を足した額です。
今回の改正により、乖離が激しい物件は、「区分所有権の価額」と「敷地利用権の価額」の両方に区分補正率をかけて求めます。
1.従来の区分所有権の価額 × 区分所有補正率
2.従来の敷地利用権の価額 × 区分所有補正率
出典「税務署.”「居住用の区分所有財産」の評価が変わりました”.(参照2025-02-28)」をもとに、お家のいろはが独自に作成
区分所有補正率を適用するか、また適用する数値は評価水準(評価乖離率の逆数)により異なります。
区分 | 区分所有補正率 |
---|---|
評価水準 < 0.6 | 評価乖離率 × 0.6 |
0.6 ≦ 評価水準 ≦1 | 補正なし(従来の評価額で評価) |
1 < 評価水準 | 評価乖離率 |
簡単に言えば、以下の様な計算がされています。
- 時価より評価額が安すぎたら、評価額を高めるための区分所有補正率をかける
- 時価に比べ評価額が高すぎたら、評価額を安くするための区分所有補正率をかける
区分所有補正率算出の肝となる「評価乖離率」の計算は少し複雑ですが、国税庁のホームページでは「評価乖離率」「評価水準」「区分所有補正率」を簡単に計算できるEXCELファイルを提供しています。
評価乖離率は以下の様に計算するため、「建物の築年数」「マンションの総階数」「所在階」「敷地利用権と専有部分の面積」を事前に把握しておく必要があります。
出典:税務署.”「居住用の区分所有財産」の評価が変わりました”.(参照2025-02-28)
4.なぜ改正?タワーマンション節税は終了か
2024年1月の評価改正が行われる理由や、タワーマンション節税が今後どうなるのかについて詳しく解説します。
改正後も節税効果は残るのか、そのポイントを見ていきましょう。
4-1.なぜ改正されたのか
これまでタワーマンションの評価額は、市場の取引価格よりも著しく低い価格で計算されていたため、大きな節税効果がありました。
また、高額なタワーマンションを購入できる方は限られており、資産が多い人だけの特権的に使われていました。
税制の公平性が失われるという見方から、税務署はこの評価方法に問題を感じていました。
評価改正の目的は、税制の公平性を確保することにあります。
高額な不動産を利用した節税を抑制し、実際の市場価格に基づいた評価を行うことで、相続税の不公平感を減らすことが狙いです。
4-2.現金に比べればまだ節税効果は高い
改正後、タワーマンション節税の効果は大幅に減りました。
ただし、現金資産に比べてタワーマンションは相続税を軽減する効果があります。
現金1億円を相続するよりも、相続税評価額7,000万円のマンションに変えてしまった方が、相続税の課税は少ないためです。
また、小規模宅地の特例を利用できれば、土地の相続税評価額を最大80%抑えられるため、依然として節税効果はります。
ただし、必ずしもタワーマンションである必要はなくなったと言えます。
5.タワーマンション節税に関する税制改正への対策
税制改正後のタワーマンション節税において、どのような対策を取るべきかについて解説します。
過度な節税に走ることなく、最適な方法を見つけるためのヒントを提供します。
5-1.タワーマンション節税以外の対策が必要
タワーマンション節税の効果が減少したため、今後は他の節税対策の併用を考えていくことが重要です。
より効果的な相続対策が可能です。
例えば、以下のようなものです。
- 生命保険の活用
- 保険契約者と被保険者が亡くなった人で、保険金受取人が相続人の場合「500万円×法定相続人の数」までの死亡保険金は相続税がかからない。また、生命保険を利用すれば、生前に財産を渡したい人を保険金の受取人に指定することが可能
- 生前贈与の活用
- 相続発生前に一定額を贈与することで、相続財産を減らし、相続税の負担を軽減できる。年間110万円までの非課税枠を活用し、早めに財産の移転を進めることが有効
他の節税対策を取り入れることで、より幅広い相続対策を行うことが可能です。家族の状況や財産の種類に応じて、最適なプランを検討してみましょう。
5-2.過度な節税をしない
2024年(令和6年)の税制改正とは別に、最近の判例では相続税の評価額に対する厳しい目が向けられています。
税制改正の有無にかかわらず、タワーマンションの相続税評価額が市場価値に基づいて評価されたケースもあります。
これは、タワーマンション節税が「過度な節税」と捉えられやすいためです。
租税負担の公平性が阻害されるような行き過ぎた節税行為は、裁判の結果によって追徴課税が発生する可能性があります。
こうした場合、かえって相続税で損をする可能性があります。
消して節税行為が悪いわけではありませんが、常識的に考えて「やりすぎ」と考えられるほどの節税には注意が必要です。
例えば、本来1億円の相続税が、タワーマンション節税により0円となれば、とても公平とは言えません、
無論、これまでに解説した通りタワーマンション節税の効果は抑えられたため、以降は過度な節税となるみなされるケースは少なくなるでしょう。
6.相続税対策は専門家への相談も考える
相続税対策は、税制や不動産、財産管理に関する複雑な知識が必要です。
そのため、専門家に相談することが非常に重要です。
特にタワーマンション節税に関しては、税理士への相談が効果的です。
タワーマンションの相続税評価の方法や、相続税の軽減方法についてアドバイスを受けられます。
ただし、相続税評価額は市場価格と大きく乖離する場合があります。
相続税評価だけ遺産分割をすると、本来の不動産の価値を把握できていないため、後にトラブルとなることもあるでしょう。
相続に向けて、市場における不動産の価値を知り場合は、不動産鑑定士に相談しましょう。
まとめ
2024年の税制改正により、タワーマンションを利用した節税効果は大幅に減少しました。
しかし、現金資産に比べると依然として相続税を軽減する効果は残ります。
今後は、タワーマンション節税だけでなく、他の節税対策との併用が重要です。
改正後の変更点を理解し、最適な節税対策を講じましょう。