住宅ローンをペアローンで組んでいる家や、相続で分割せずに引き継いだ土地等、不動産が共有名義となっていることはよくあります。
共有名義の物件は、普段は問題なく使用することができるのですが、いざ売却しようとすると、共有であることの難点が顕在化します。
共有名義の売却は、共有者の全員の同意が必要であるため、ある程度事前準備をしたうえで取り掛かることが重要です。
また、共有物件では共有者に代理人となってもらい売却することもあります。
代理を使う場合には、代理の知識も必要となってきます。
そこでこの記事では、共有名義物件の売却について、基礎知識やポイント、注意点について解説します。
最後までお読みいただき、共有名義物件の売却をスムーズに進めてください。
不動産売却について詳しく知りたい方は『不動産売却の基本』も併せてご覧ください。
Contents
1.共有物件の売却の基本
共有物の不動産売却には、「共有持分の売却」と「共有物全体の売却」の2種類があります。
共有持分とは、例えば2人で半分の割合で共有していた場合、50%が共有持分ということになります。
よく勘違いされる部分ですが、50%という共有持分の売却の売却は、他の共有者に相談することなく自分で勝手に行うことができます。
それに対して、共有物全体の売却に関しては、共有者全員の同意が必要です。
共有持分の売却 | 単独で自由にできる |
---|---|
共有物全体の売却 | 共有者全員の同意が必要となる |
例えば、不動産をA氏とB氏の50%ずつで持っていた場合、A氏がC氏に対して50%の共有持分を売る場合は、勝手に売却できます。
一方で、不動産全体をC氏に売却する場合は、A氏とB氏の共有者全員の同意が必要となります。
共有名義物件全体の売却は、法律的に言うと「共有物の変更」に該当します。
共有物の変更は、処分(共有物全部の売却や担保に供すること)や変更(農地を宅地に変えること)は、全員の同意が必要な行為となります。
2.売却前に決めておくべき3つのルール
共有名義の売却では、事前に「最低売却価格」、「窓口担当」、「費用配分割合」の3つを決めておくと売却がスムーズに運びます。
この3つを決めておかないと、売却ではチャンスを逃し、不動産会社などの関係者が混乱し、費用負担で揉めることになります。
2-1.最低売却価格を決めておく
共有物件の売却では、共有者全員の同意が必要となりますが、同意事項の中で最も重要なものは「価格」です。
価格同意を得やすくするには、共有者全員で「いくら以上なら売ろう」と決断できる最低売却価格を決めておくことがポイントです。
不動産の売却では、買主からの購入希望がポロポロと来ます。
購入希望は、具体的に買付証明書と呼ばれる書面で来ますが、買付証明書には「購入希望金額」が記載されています。
不動産の売却は、値引交渉が当然のように行われることが多く、買付証明書に記載されている購入希望金額は売り出し価格を下回っていることも少なくありません。
売り出し価格も値引交渉がされること前提に、あえて高めに設定しておく場合もあるため、買付証明書を受領するたびに売却しても良いかどうかの判断を行うことがよくあります。
最低売却価格を決めておかないと、買付証明書が来るたびに、毎回、「売った方が良いのか、もっと待った方が良いのか」等の協議を全員で行うことになります。
共通の判断軸がないと、「あのとき売っておけば良かった」、「もっと待っておけば良かった」等々の意見が出てきてしまい、話がまとまりにくくなります。
話をまとめやすくするためには、共通の判断軸が必要となり、その判断軸が最低売却価格なのです。
不動産の売却は売り出し価格通りに売れないことが多く、購入希望金額に対する全員の判断が何回も必要となることがよくあります。
意思決定をスムーズにするためにも、最低売却価格をあらかじめ決めておきましょう。
2-2.窓口担当を決めておく
共有物件の売却では、窓口担当者を決めておくことをおススメします。
不動産の売却は、不動産会社や司法書士、買主等々、第三者と関りながら話が進みます。
不動産会社や買主等からすると、共有者は全員売主です。
窓口担当者が決まっていないと、誰に連絡を取って良いのか分からず、誰の話を信じて良いのかもわかりません。
窓口が決まっていないと、第三者が混乱しますので、代表者を一人決めて、対外的な対応は全てその代表者に任せるようにしてください。
2-3.費用配分割合を決めておく
売却では、仲介手数料や測量費、印紙代、税金等々の費用が発生します。
費用に関しては、その負担割合を決めておくことが重要です。
費用の負担割合は、原則、全て持分割合で応分することが合理的です。
逆に持分割合以外の方法で配分することは、よほどの合理性がない限り、揉める原因となりますので、避けた方が良いです。
窓口担当者が立て替えた場合でも、後で応分負担するルールをきちんと明確にしておくことも重要です。
尚、最大の功労者となる窓口担当者へは、後で食事会を開いたり、プレゼントをあげたりするのが良いでしょう。
慰労を約束してあげることで、窓口担当者の精神的な負担は随分と和らぎます。
費用配分はあくまで全て持分割合とし、窓口担当者への慰労は別途対応するのが合理的です。
3. 共有名義の物件を売却する方法
共有名義の物件を売る方法について、全部で5つの方法を解説していきます。各方法に特徴があるのでしっかりと読み、ご自身にあった方法を選択してくださいね。
3-1. 自分の持分のみを売却
共有不動産が「土地」の場合にのみ使える方法として自分の持分のみ売却することが可能です。自分の持分だけを売却する場合は、共有者の同意がなくても売却可能です。
他の共有名義者との話し合いをする必要がなく、自己判断で売却できるというメリットがあります。ただ、共有名義不動産の一部だけを購入するニーズが多いわけではないため、売却価格が相場よりも低くなりがちというデメリットがあります。
3-2. 共有者全員の了承を得て共有名義不動産ごと売却
共有名義不動産ごと売却するのが一番シンプル方法です。共有持分を所有している共有者全員の同意や承諾があれば売却できます。
メリットは、共有者全員が持分割合に応じて売上金が得られ、かつ共有者全員の意思で取引を行うので、透明性があり余計なトラブルが起こる心配が少ないことです。デメリットは、売却には共有者全員の意見の一致が必要であり、一致しない場合は売却できないことです。
3-3. 分筆して売却
共有名義のそれぞれの所有分を登記簿上で分けて、2つ以上の単独名義の土地とする手続きを「分筆」といいます。分筆された土地には新たな地番がつきます。
メリットは、分筆されたところは単独名義となるので自由に売却できる点です。
デメリットは、分筆の手続きに時間と費用がかかる点です。
まずは現場を測量し土地の境界線・分筆の境界線を確定させ、境界標を設置します。売買契約において重要なものなので、分筆する土地共有者全員の立会いが必要となります。
そして登記に必要な書類を準備し申請するという流れになります。
測量の費用や手順の詳細については、別の記事に書いているので参考にしてみてください。
3-4. 名義変更し所有者を一人に統一し売却
共有持分権者のうちの1人が、ほかの共有持分権者の共有持分をすべて購入し、単独名義になる方法です。この場合、単独名義になった後は、その所有者が誰からも許可を得る必要なく売却できます。
メリットは、全員が持分率に応じた売り上げを得られることであり、デメリットは、だれが最終的な所有者となるかを決める議論が必要になることです。
この場合、売却金額が安すぎる場合は贈与と扱われ、贈与税が発生する可能性があるので専門家の意見を聞いて設定したほうがいいでしょう。
3-5. 共有名義を解消し、自分以外の共有持分権者が売却
売却にあたって議論が難航した場合の最後の手段として、共有名義を解消する方法があります。
但し、手続きが大変になるのでよく考えて選択してください。
共有名義を解消する方法は2つあります。
- 共有特分割請求について
- 裁判所に共有物の分割方法を判断してもらう方法です。当事者間でどうしても解決できず難航してしまった場合に選ばれる選択肢になります。裁判は調停と訴訟の2種類の方法で審議されます。調停の場合は裁判所で話し合いを行っていきますが、合意できないときは裁判に移行します。
- 共有名義の放棄について
- これ以上持っていたくない場合、持分を放棄できます。これ以上持っていたくないのなら、放棄して現在の状況を解消し、自分は売却に関わらないという選択肢もあります。
ただし、放棄した持分が、他の名義者に移行するため、贈与税が発生します。
例えば、1/3ずつで持たれている不動産について、1人が共有名義を放棄した場合、結果的に持ち分が1/2ずつとなります。その結果、増えた持ち分に対して贈与税が発生します。
4.最低売却価格を決めるポイント
最低売却価格は、低めに設定しておくことがポイントです。
最低売却価格を高めに設定してしまうと、その価格に到達する買主が一向に現れない可能性もあり、売却が長期化し、断念してしまうことがあります。
共有物件は、共有者が多いほど話がまとまりにくくなりますので、多人数で共有している物件ほど最低売却価格を低めの価格で設定すべきです。
まれに、相続の共有を放置し続けた結果、共有者が30人以上を超えるような多人数の共有物件が存在します。
このような多人数の共有物件は、売却に困難を極めますが、最低売却価格を低めに設定できると、上手くいくことが多いようです。
多人数の共有物件では、欲をかく人間が1人でもいると、同意が取れずに売却できません。
事前に最低売却価格が低く合意できていると、あれこれ言い出す共有者がいなくなるため、パッと売却することが可能となります。
多人数共有物件は極端な例ですが、話まとめるという部分は2~3人の共有でも本質的に同じです。
欲深い共有者が1人でもいると、売却がまとまらなくなります。
最低売却価格は、話をまとめやすくするためにも低めで決めておくことが重要です。
適切な売却価格を見込むためにも、複数の不動産会社に査定を依頼し、査定価格を横並びにする必要があります。
1社だけの査定額だと、それが高いのか低いのか分かりませんが、複数の査定額があれば、高い価格と低い価格が一目瞭然で分かります。
共有者同士で納得感のある価格査定を行うのであれば、国内で最も長く信頼され続けている「不動産売却HOME4U(ホームフォーユー)」が適切な一括査定サービスと言えます。
HOME4Uは、国内最長の23年の運営実績があり、最大6社にまとめて査定依頼ができます。
しかも、厳選された実力のある会社のみが登録されているため、頼れる不動産会社を効率よく見つけることができるんです。
共有物件では、共有者からいろいろな意見が出る可能性もありますが、実力のある不動産会社に依頼すればスムーズに売却を進めてくれます。HOME4Uで、実力のある不動産会社を見つけ、最低売却価格の決定にも役立てるようにしましょう。
5.共有物件売却の注意点
この章では、共有物件を売却するときの注意点についてご紹介します。
5-1.離婚で住宅ローンが残っている場合
家を購入する際、夫婦の収入を合算し、世帯収入を前提として住宅ローンを組むことがあります。
連帯債務やペアローンで合算収入とする場合は、所有形態は基本的に共有となっています。
離婚をしても、家の所有形態や住宅ローンの債務の関係は解消されるわけではありません。
共有や債務の関係を解消するために、離婚時はマイホームを売却することも多いです。
離婚時は、配偶者が仕事を辞めていたりすると、収入状況が住宅ローンを組んだときと大きく異なっていることがあります。
この際、オーバーローンとなっていると、売却が難しくなります。
オーバーローンとは、住宅ローン残債が売却額を上回っている状況です。
オーバーローンで売却する場合、売却で返済しきれなかった住宅ローンの残債については、何らかの形で一括返済することになります。
ペアローンの場合は、夫と妻がそれぞれ主たる債務者であるため、住宅ローン残債は離婚後もそれぞれが返済することになります。
配偶者が専業主婦(主夫)となっている場合、住宅ローン残債を返済できないという問題が発生し、売却できなくなるというパターンが多いです。
家がオーバーローンで売却できない場合には、以下のような対処法があります。
- できるだけ高く売却する
- しばらく住宅ローンを払ってから売却する
- 財産分与で一方の名義にする
オーバーローンでも売却後に残る住宅ローン残債がわずかで、なんとかなりそうな場合には、頑張ってできるだけ高く売るようにします。
また、住宅ローンの返済を今まで通り続け、オーバーローンが解消された時点で売却することも考えられます。
さらに、財産分与を駆使して、所有権も債務も単独名義とする方法もあります。
例えば、収入のない配偶者(例えば妻)から収入のある配偶者(例えば夫)に財産を分与し、夫が妻のローンを借り換えることによって、所有権も債務も夫の単独名義としてしまう方法もあります。
いずれにしても、オーバーローンは離婚時の不動産売却の一番の障害となります。
売却前に対策をしっかり検討するようにしましょう。
5-2.代理を依頼する場合
共有物件の売却では、ある共有者が他の共有者に売却を代理で依頼することもあります。
例えば、共有者が遠方にいて売買契約当日に立ち会えない場合などは代理を使うケースがよくあります。
代理とは、本人に変わって他人に法律行為をしてもらい、その法律効果だけを本人が受ける制度になります。
代理人が本人に成り代わって判断も可能であるという点が特徴です。
「判断できる」とは、例えば4,000万円の物件を3,900万円に値引して欲しいと言われてとき、本人に相談せずに、代理人が自分で判断して3,900万円で合意できるということです。
それに対して、代理権を持たない使者は本人に確認を取らないと値引に合意することができません。
つまり、代理権を与えるということは、本人の頭をスッポリ他人に渡してしまうことなので、慎重に行う必要があります。
代理は、具体的に委任状を作るだけで代理を委任することが可能です。
そこで、代理を安全に進めるためには、この委任状の作成がポイントとなります。
代理では、代理人に勝手に色々判断されないように、代理権を与える範囲を明確に制限します。
売却することを委任する際、委任状の中で「売却代金」や「引き渡しの予定日」等の具体的な金額や日時を記載し、重要な売却条件を変更できないようにしておきます。
例えば売却条件として4,000万円と明記して委任すれば、代理人は勝手に値引きをすることができなくなります。
委任の範囲と内容を具体化し、代理人に判断余地を与えないようにすることが重要です。
また、委任状で、「自宅売却に関する一切のこと」というような表現も使ってはいけません。
「○○に関する一切のこと」とすると、結局、代理人が勝手に判断できるようになってしまいますので、このような表現はNGです。
代理で安全に売却するには、委任状の中にあいまいな記載を行わないことが重要です。
さらに、捨印もしてはいけません。
捨印とは、委任状の空白部分に印を押しておくことです。
捨印は、あらかじめ訂正に備えるために行われます。
捨印があると、委任状を代理人が訂正できるため、代理人が新たな委任事項も勝手に追加することもできます。
本人の知らないところで代理行為ができてしまうため、捨印は絶対に押さないということが重要です。
以下に、代理で委任状を作成するポイントをまとめます。
- 代理権を与える範囲を具体的に明記にし、制限すること
- 「○○に関する一切のこと」という表現は使わないこと
- 捨印は押さないこと
尚、弁護士や司法書士に訴訟や登記を依頼する場合、「一切の件」という表現や「捨印」が良く使われます。
専門家への依頼は、「一切の件」に該当する行為がほとんど無く、また本人と同じ方向性で業務を処理するため、大きな問題が発生することはありません。
売却では、最後、司法書士に登記を委任しますが、共有者への代理とは別に考えて大丈夫です。
共有名義の売却は、一般人である家族が代理人となることが多いため、あいまいな表現や捨印等は避けて委任状を作成するようにしましょう。
6. 共有名義の物件を売却する場合の税金と確定申告
不動産の売却の際に考慮すべき税金と確定申告が気になるが、複雑でなかなかわからない方が多いかと思います。ここでは共有名義の物件売却の際の税金と確定申告のポイントを解説します。
6-1. 共有名義不動産を売却したら納税が必要
共有名義不動産を売却し、売却益が出たら、税金を納める必要があります。共有名義不動産には様々な売却方法がありますが、どの方法で売却しても納税は必要になります。
6-2.確定申告は共有者の個別申請が必要
共有名義の不動産を売却した場合は、確定申告が必要です。共有名義不動産に関する確定申告は、原則としてまとめて申請できないため、売却後に分配された金額やかかった費用などをまとめて個別で申請する必要があります。
確定申告の詳細については、こちらの記事でもまとめていますので是非あわせてご確認ください。
また、必要書類や流れは常に最新情報を確認して行いましょう。
6-3. 税金の支払額は、物件の所有年数によって異なる
共有名義不動産の共有持分を売却した際の税金の支払額は、その人の物件持分の所有年数によって変化します。不動産を売却した場合の所得は譲渡所得と言われ、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の2つに分けられます。共有名義不動産の共有持分は長く所有していれば税率は下がります。
- 短期譲渡所得の税率
- 共有名義不動産の持分を所有して5年以下の場合に短期譲渡所得として扱われます。所得税率が30%、住民税率が9%となります。税率や取り扱いは常に最新情報を確認しましょう。
- 長期譲渡所得税率
- 共有名義不動産の持分を所有して5年超の場合は、長期譲渡所得として扱われます。所得税率が15%、住民税率が5%となります。税率や取り扱いは常に最新情報を確認しましょう。
以上から、共有名義不動産は、長期譲渡所得の扱いになる5年を超えてから売却した方が節税の観点では有利ということになります。
まとめ
いかがでしたか。
共有名義物件の売却について見てきました。
売却する前には「最低売却価格」、「窓口担当」、「費用配分割合」の3つを決めておきます。
最低売却価格については、原則として低めの価格を設定しておくと、揉めることなくスムーズに売却できます。
離婚時にオーバーローンで売却する場合、残債の返済方法について対処法を考える必要があります。
また委任状を使って代理で売却する場合、委任する内容を明確にし、捨印は押さないようにするのがポイントです。
共有名義物件の売却では共有者全員の同意が必要ですので、十分に話し合った上で売却に着手しましょう。
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この記事のポイント まとめ
共有物件の売却は次の5つの注意が必要です。
- 自分の持分のみを売却
- 共有者全員の了承を得て共有名義不動産ごと売却
- 分筆して売却
- 名義変更し所有者を一人に統一し売却
- 共有名義を解消し、自分以外の共有持分権社が売却
詳しくは、「3. 共有名義の物件を売却する方法」をご覧ください。