不動産の「譲渡」と「売却」にはどのような違いがあるのでしょうか。
不動産に関する言葉を正しく理解していくとともに、それらと関係する税金についても確認していきましょう。
不動産の売却について基礎から詳しく知りたい方は『不動産売却の基本』ご覧ください。
Contents
1.「譲渡」とは権利を渡すこと
「譲渡」とは権利を渡すことです。
有償で権利を譲る「売却」や「交換」、金銭のやり取りが発生せずに無償で権利を渡す「贈与」や「相続」、いずれも譲渡と言って間違いありません。
譲渡の仕方には、上述の売却や贈与といった方法がある、ということです。
ただし、不動産取引の実務においては、譲渡と言えば「売却」を指すことが一般的です。
不動産取引を実務とする不動産会社などは、専ら売買に携わっているためです。
また、有償であることと無償であることは大きな違いですので、混同をさけるため「有償譲渡」「無償譲渡」と表現することもあります。
こうした表現をする場合、売却と交換は有償譲渡、贈与と相続は無償譲渡にあたります。
2.「売却」とは有償で行う譲渡のこと
売却とは、お金をもらって不動産を譲る取引であり、「有償で行う譲渡(有償譲渡)」です。
不動産会社などが使う「譲渡」という言葉は、「売却」を指していることもあるため注意が必要です。
あくまで、譲渡には後述する「贈与」「相続」なども含まれます。
実際に、法律の条文や税金の規定などにおいては、その他の取引(交換や贈与など)も譲渡とされています。
4章で詳しく解説しますが、売却による利益の事を譲渡所得と言います。
譲渡所得には、所得税と住民税がかかり、これらをまとめて譲渡所得税と呼ぶことがあります。
こうした専門用語も、「譲渡」と「売却」という言葉で困惑しやすい原因かと思います。
また、「売却」は売り手目線の言い回しであり、「売買」と表現する場合もあります。
3.「贈与」や「相続」は無償で行う譲渡のこと
「贈与」や「相続」といった方法には金銭のやり取りが発生しないため、「無償で行う譲渡(無償譲渡)」と言えます。
「贈与」とは、財産を所有している人(贈与者)が存命中に、受取人(受贈者)に対し、無償で財産を譲り渡すことを指します。
贈与者と受贈者の双方が合意すれば、贈与は法的に成立します。
一方の「相続」は、財産を所有している人(被相続人)が亡くなったあとに、遺族(相続人)などが財産を引き継ぐことです。
次の章で詳しく解説しますが、贈与には贈与税、相続には相続税がかかります。
これらの税金は、不動産を取得した側が納税するもので、相続税よりも贈与税の方が高い税率に設定されています。
4.不動産は譲渡の方法で税金が異なる
不動産は、譲渡の方法によって、下表のとおり課せられる税金が異なります。
譲渡方法 | 税金 | 納税者 |
---|---|---|
売却 | 譲渡所得税 | 売主 |
贈与 | 贈与税 | 受贈者 |
相続 | 相続税 | 相続人 |
それぞれ違う税金のため、当然税率も異なります。
他に大きな違いとして、売却の場合は「不動産をあげた人」が納税者になりますが、贈与・相続の場合は「不動産をもらった人」が納税者になります。
3つの譲渡方法それぞれに課される税金について、以下で詳しく解説します。
4-1.売却なら譲渡所得税
不動産を売却した際、売却代金から取得費(その不動産を取得するのにかかった費用)や譲渡費用(売却するためにかかった費用)などを差し引いて利益が発生した場合、その利益に対して譲渡所得税(所得税と住民税)が課されます。
譲渡所得税は利益に対し課税されるので、売主が支払う税金です。
譲渡所得税は、不動産売却で得た利益(譲渡所得)を計算し、所有期間に応じた税率をかけて求めます。
譲渡所得がマイナスの場合は、税金はかかりません。
譲渡所得税=課税譲渡所得額×税率
取得費は、不動産の取得にかかった費用ですが、経年により価値が落ちる建物部分は、減価償却を考慮して計算する必要があります。
減価償却については「不動産売却における減価償却とは」をご覧ください。
税率は、所有期間5年を境に、以下の様に異なります。
所得の区分 | 税率 |
---|---|
長期譲渡所得(所有期間5年以上) | 20.315% 【内訳】 所得税:15% 住民税:5% 復興特別所得税:0.315% |
短期譲渡所得(所有期間5年未満) | 39.63% 【内訳】 所得税:30.% 住民税:9% 復興特別所得税:0.63% |
詳しい計算方法は、以下で解説しています。ぜひ、ご覧ください。
4-2.贈与なら贈与税
贈与の場合、受贈者には贈与税がかかります。
贈与税は、毎年1月1日から12月31日までに受けた贈与の総額から、基礎控除額110万円を控除した金額に対して税率をかけて算出します。
そのため、年間にして110万円以内の贈与であれば、税金はかかりません。
不動産の課税価格は、土地部分は相続税評価額、建物部分は固定資産税評価額で求めます。
贈与税=基礎控除後の課税価格×税率-控除額
贈与税の税率と税額控除(基礎控除額とは異なる控除)は、基礎控除後の課税価格に応じて決まります。
また、一般贈与財産用と特例贈与財産用の場合で異なります。
特例贈与財産は、父母や祖父母などの直系尊属から、子供や孫などの直系卑属へ贈与された財産のことで、特例贈与財産以外を一般贈与財産と言います。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
不動産などの評価額が高い財産の贈与に関しては、相続時精算課税制度が用いられることがあります。
相続時精算課税制度とは、原則60歳以上の父母または祖父母が、18歳以上の子または孫などに財産を贈与する際に選択できる制度です。
この制度を利用する場合、110万円の基礎控除額に加え、累計で2,500万円まで控除され、税率も一律20%となります。
ただし、贈与者が亡くなった場合は、贈与時の価額の合計額から基礎控除額を控除した残額を贈与者の財産とみなし、相続としての計算します。
4-3.相続なら相続税
被相続人から財産を受け継いだ相続人には相続税がかかりです。
相続税は、相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた価額に対して、一定の税率をかけて求めます。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で求められます。
以下は、相続税の税率ですが、各相続人が取得する金額に対して、それぞれ税率をかけて計算します。
相続人が複数いる場合は、遺産総額に税率をかけるわけではないので注意しましょう。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
配偶者には配偶者控除が適用されるため、「法定相続分相当額」もしくは「配偶者が相続する財産の額が1億6千万円」までの相続財産には、相続税がかかりません。
不動産を相続する方の中には、将来的に売却を考える方もいるかと思います。
売却時には、売却益によって譲渡所得税がかかるため注意しましょう。
5.売却したのに贈与とみなされることがある?
例えば、子に不動産を譲りたい親がいたとします。
贈与の場合は重い税負担となりますが、非常に安い価格で売却した場合、税金を抑えられるのではないでしょうか?
例えば、本来1億円の価値がある物件を、1,000万円で売却すれば売却益は発生せず、譲渡所得税がかからないはずです。
売却価格は売主と買主の双方の合意で決まるため、安い価格での取引は可能で、確かに譲渡所得税を低くできます。
ただし、不動産の本来の価値よりも著しく安い価格で売却した場合は、「本来の価値と売却価格との差額部分を贈与した」とみなされ贈与税がかかります。
これを、みなし贈与といいます。
この場合、税務署から贈与税の支払いを命じられる他、場合によっては加算税や延滞税が発生することもあります。
不動産の取引には、登記や納税が絡んできますので、明らかに不適当な取引は発見されます。
みなし贈与に当たる行為には注意しましょう。
ここまで、「売却」「贈与」「相続」といった各譲渡の方法や税金について解説してきました。
譲渡の方法を決めるうえでは、売却における価値や、贈与・相続における不動産の評価額を知っておくことが重要です。
もし、不動産の売却価値が高い場合は、他人への売却も選択肢に入ってくるでしょう。
不動産の売却価値を知るには、不動産会社の査定が必要です。査定額は各社異なる場合が多いので、できるだけ複数社を比較することをおすすめします。
複数社への査定依頼は大変ですが、NTTデータグループが運営する一括査定サービス不動産売却 HOME4U(ホームフォーユー)を利用すれば、最大6社に一括で査定を依頼できます。ぜひご活用ください。
まとめ
譲渡とは権利を譲り渡すことであり、「売却」「贈与」「相続」などは譲渡の方法の一です。
ただし、「譲渡=売却」として話される方も多いので、混乱しないように覚えておきましょう。
売却や贈与、相続といった譲渡の方法は、それぞれ課される税金の種類が異なり、誰が税を負担するのかも異なります。
近いうちに譲渡を考えている方は、状況に応じて適切な譲渡方法を考えていきましょう。
譲渡方法を選択するには、不動産の評価額と、売却における価値をしっておくことが重要です。
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