建築基準法上では、災害対策や良好な住環境を維持するために、さまざまな制限を設けています。その1つが接道義務です。
接道義務を満たさない場合、再建築ができないため活用用途が狭まり、土地の売却における価値も低くなります。
そのため、土地を所有する方にとって、接道義務の理解は重要です。
そこでこの記事では、以下について解説します。
- 接道義務の意味と必要性
- 接道義務を満たさない場合の対処法
- 建ぺい率や容積率などの建築ルール
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Contents
1.接道義務とは
接道義務とは、土地は、建築基準法上の道路に2メートル以上接していなければならないという決まりです(建築基準法第43条1項)。
道路から通路部分を通った先の奥にある土地(いわゆる旗竿地)であっても、敷地の形が不整形の土地であっても、2メートル以上接道している必要があります。
また、道路に2メートル以上接道していても、その道路が建築基準法上の道路(幅員4メートル以上)ではない場合、接道義務を満たしません。
「建築基準法上の道路」については、「3.建築基準法が定める道路とは」で解説します。
1-1.接道義務を満たしていないとどうなる?
接道義務を満たしていない土地には、建物を建てることができません。すでに建物がある場合でも、増築や再建築は認められません。
そのため、土地を所有していても土地の利用価値は大きく減少し、土地活用の方法は制限されます。
売却するとしても、接道義務を満たす土地と比べ資産価値は下がり、売却しにくく、売却できても価格は下がりやすいでしょう。
1-2.なぜ接道義務が必要なのか?
接道義務が必要とされる理由は、災害時に避難経路を確保するとともに、緊急車両の通行をしやすくするためです。
地震立国ともいえる日本では、地震に強い街づくりが必要です。特に、住宅が密集する都市部では、避難経路の確保が重要になります。
救助活動を行うにも、被災した建物が道路を塞ぐと緊急車両の通行ができず、救助や搬送ができない状況に陥る可能性が高くなります。
また、火災が発生した際、道路の通行が確保されず消防車の到着が遅れると、隣接する建物への延焼など被害が拡大する可能性があります。
一般的な火災で使用される消防車の幅は約2メートル、大型はしご車であれば約2.5メートル、救急車は1.9メートルです。
道路幅が4メートル以上と規定されているのは、幅2.5メートルの車両幅と消化活動のためのスペースを確保するためです。
2.例外的に接道義務違反にならない土地
例外的に接道義務違反にならないケースとして、建築基準法第43条2項2号(43条但し書き)に基づく許可を受けた場合があります。
第43条2項2号は、建築基準法上の道路に接していなくても、例外的に建築審査会の同意を受けることで建築が認められる場合を規定したものです。
詳しくは『e-GOV法令検索建“建築基準法第43条2項2号”』をご覧ください。
建築審査会は、建築の指導について適正かつ円滑に運用するための第三者機関で、建築基準法の例外的な取り扱いに必要な同意や許可などを与えます。
具体的には、建築物は以下のいずれかの基準を満たす必要があります。
- その敷地の周囲に公園、緑地、広場等広い空地を有する
- その敷地が農道その他これに類する公共の用に供する道(幅員四メートル以上のものに限る。)に二メートル以上接する
- その敷地が、その建築物の用途、規模、位置及び構造に応じ、避難及び通行の安全等の目的を達するために十分な幅員を有する通路であって、道路に通ずるものに有効に接する
これらの条件を満たし安全性が確保されていると考えられる敷地について、建築審査会の同意を受けた場合、例外的に建物の建築が可能となります。
ただし、注意しなければならないのは、許可が得られるかは申請してみなければ分からないことです。また、許可は敷地に対してではなく、建物に対して出されます。
そのため一部のケースを除き、永続的なものではなく、建築するたびに許可が必要です。
3.建築基準法が定める「道路」とは
敷地は、原則として建築基準法第42条に定める「道路」に接道している必要があります。
第42条1項1号 | 4メートル以上の道路法による道路(国道・県道・市道・区道など) |
第42条1項2号 | 都市計画法・土地区画整理法などの法律によってつくられた道路 |
第42条1項3号 | 既存道路(建築基準法施行時に既に幅員4メートル以上あった道路) |
第42条1項4号 | 都市計画法などで2年以内に事業が予定されている都市計画道路 |
第42条1項5号 | 分譲地の開発企業などが申請を行い、行政から位置の指定を受けて造られた道路(位置指定道路と呼ばれる) |
第42条2項 | 建築基準法施行前から建築物が立ち並んでいた道(幅員1.8メートル以上4メートル未満)で、一定条件のもと特定行政庁が指定した道路(通称:2項道路。みなし道路) |
「e-GOV法令検索“建築基準法第42条”(2024-06-06参照)」をもとに、お家のいろはが独自に作成
建築基準法が施行された1950年(昭和25年)以前からある道路(第42条1項3号道路や42条2項道路)は、それ以降に整備された道路に比べ幅員が狭い道路が多くなります。
そのため、道路として認められるものの、実際に生活するうえでの利便性や建物の建築にあたって問題が生じやすい傾向です。
4.接道義務をクリアするセットバック
接する道路の幅員が4メートル未満である場合は、接道義務を満たさないため、再建築ができません。
ただし、セットバックを行えば接道義務が満たされ、再建築が可能になります。
ここではセットバックならびに、セットバックで生じた土地の所有権や固定資産税の負担について解説します。
4-1.セットバックとは
セットバックとは、道路と敷地の境界線を後退させることです。
セットバックは、道路の中心線を基準に後退させる場合と、道路の反対側を基準に後退させる場合の2つのパターンがあります。
道路の幅員が2メートルである場合を例に見てみます。
道路の中心から2メートル後退させる場合
道路を挟んで敷地を有する土地所有者が、それぞれ2メートルずつ後退することで幅員4メートルの道路幅を確保します。
道路の反対から4メートル後退させる場合
道路の反対が河川や線路の敷地などの場合、4メートルの幅員を確保するため道路反対側の境界から4メートルの位置まで後退させなければなりません。
4-2.セットバックした土地の所有者
道路と敷地の境界線を後退させることで生じた土地部分は道路とみなされますので、物を置くことや駐車スペースとして活用できません。
敷地の一部として活用したり、花壇に使われたりするケースも見受けられますが、自治体などの条例によって指導を受ける可能性があります。
セットバックで生じた土地部分については、そのまま所有することもできますが、固定資産税などの負担が生じます。このとき、自治体に寄付することも考えられますが、受け付けられない場合もあります。
しかし、道路として利用されている土地を所有する場合、所定の要件を満たすことで、その部分の固定資産税が非課税となります。非課税とするためには、自治体に対して申告することが必要です。
詳しくは、『東京主税局“道路非課税の申告をお願いしています”』など、自治体のホームページをご覧ください。
5.接道義務以外の法令による建築ルール
土地を活用するにあたり、接道義務以外にもさまざまな法令が影響します。ここでは、敷地に建物を建築するにあたって関連する制限について解説します。
建ぺい率は、敷地面積に対する建築面積の割合です。建物を上からみた場合の面積が敷地面積のどれくらいを占めているかで判断します。
建ぺい率は、用途地域によって30〜80%の間で定められています。土地面積100平米で建ぺい率60%の土地であれば、建築面積の上限は、100平米×60%=60平米です。
2方向に接道する角地の敷地は、建ぺい率が10%緩和されます。
建築基準法では、原則的な建ぺい率と容積率が定められており、実際の数字は建築基準法の範囲内で地方公共団体の長などが決めます。
すでに市街地を形成している、もしくは今後優先的に市街化を図る「市街化区域」では13の用途地域が定められ、大きく「住居系」「商業系」「工業系」に分けられます。住居専用地域では、良好な住環境を維持するために建ぺい率が低く、商業活動を促進する商業系の地域では高く設定される傾向です。
なお、セットバックした敷地について、セットバック部分は建ぺい率の計算上土地面積に含むことができません。
5-2.容積率
容積率は、敷地面積に対する延べ床面積の割合です。
敷地面積100平米で容積率が100%の土地であれば、例えば1階60平米、2階40平米、延べ床面積100平米の建物が建てられます。
容積率についても、特に、低層住居専用地域では容積率が低く、商業系の地域では高い傾向です。
また、容積率は前面道路の幅員によっても制限されます。前面道路が12メートル未満の場合、住居系の用途地域であれば「前面道路幅員(メートル)×40(%)」、その他の用途地域であれば「前面道路幅員(メートル)×60(%)」以下でなければなりません。
つまり、指定容積率と前面道路による制限による容積率のいずれか小さい方の数字がその場所の容積率となります。
なお、建ぺい率と同様に、セットバックした部分については、容積率の計算上、土地面積に含むことができません。
5-3.建物の高さ
建築面積や延べ床面積の制限のほかにも、建物の高さに関する制限があります。高さ制限には、「斜線制限」「絶対高さ制限」「日影規制」があります。
斜線制限
斜線制限は、隣地との境界線や道路境界線からの距離に応じて、建物の高さを、地上あるいは地上から一定の高さからの斜線上の範囲内に制限する規制です。隣地や道路の採光、通風を確保するためです。
斜線制限には、「道路斜線制限」「北側斜線制限」「隣地斜線制限」があります。
- 道路斜線制限
- 前面道路や周辺建物の採光、通風を確保するための制限です。
前面道路の反対側の道路境界線から一定の距離(適用距離という)に達するまで、その距離の1.25倍または1.5倍以下の高さの範囲内で斜線上に高さが制限されます。
また、前面道路から後退した建築物については、前面道路の反対側の境界線から後退した距離の分だけ外側にあるものとして制限を受けます。
- 北側斜線制限
- 敷地の北側に隣接する土地の日照を確保するための規制です。
家を建てるときは、北側の隣地境界や道路境界から5メートルあるいは10メートル立ち上がった高さから北側境界線までの距離の1.25倍以下の範囲内で建物を建てる必要があります。
第1種低層住居専用地域・第2種低層住居専用地域・田園住居地域・第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域で適用されます。
- 隣地斜線制限
- 隣接の建物間の上部の距離を一定程度維持し、採光や通風を確保するための規制です。
隣地境界線から20メートルあるいは31メートル立ち上がった高さから、隣地までの距離の1.25倍または2.5倍以下の斜線上の範囲内は高さが制限されます。
建物の高さが10メートルまたは12メートルに制限される第1種低層住居専用地域・第2種低層住居専用地域・田園住居地域以外の用途地域で適用されます。
絶対高さ制限
絶対高さ制限は、主に戸建てを中心とした低層住宅の良好な住環境を守るための制限で、建物の高さは10メートルまたは12メートル以上にすることはできません。
第1種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域、田園住居地域に適用されます。
日影規制
日影規制は、冬至の日(12月22日ごろ)を基準として、一定時間以上の日影が生じないよう建物の高さを制限する規制です。
規制内容は「5h-3h/4m」のように表記され、敷地境界線から5~10mの範囲では5時間まで、10メートルを超える範囲では3時間まで日影がかかってもよいことを表しています。「4m」は測定する高さが地盤面から4メートルであることを示しています。
日影規制の対象区域は地方公共団体の条例で指定され、規制内容は各自治体によって定められます。
5-4.都市計画法による規制
その他にも国は、都市の健全な発展のため都市計画法を定め、地域ごとに建築の可否や用途、構造などさまざまな規制を設けています。
都市計画法に基づき、一体の都市として整備するために都道府県知事や国土交通大臣が指定するエリアを都市計画区域といいます。
都市計画区域のなかにも、市街地を形成している、もしくは今後優先的に市街化を図る「市街化区域」と市街化を抑制し農地や森林などを守ることに重点をおく「市街化調整区域」があります。
市街化調整区域では土地の活用が制限されており、原則として建物の建築や改築はできません。また、使用されている建物を他の用途に変更することも制限されています。
また、13の用途地域では、それぞれの地域で建てられる建物の用途や規模、高さなどを制限しています。
例えば、もっとも制限が厳しい第1種低層住居専用地域では、住宅や小中学校、診療所、老人ホームなどの建物用途に制限され、店舗や事務所、ホテル、遊戯施設などの建築は認められません。
まとめ
建物を建築するためには、原則として接道義務を満たしている必要があります。
もし、接道義務を満たしていないと思われる土地を相続した場合でも、セットバックや一定の要件を満たすことで建物を建てられる場合もあります。まずはどのような道路なのかをしっかりと調べることが大切です。
接道義務を満たしておらず土地活用が難しい場合は、売却を検討することも必要でしょう。接道義務を満たさない土地の売却は、接道義務を満たした土地と比べると難易度は高くなります。
そのため、土地取引の経験が豊富で的確なアドバイスがもらえる不動産会社に依頼することが重要です。そのためには、複数の不動産会社を比較し、信頼できる会社を探す必要があります。
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