借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権のことをいいます。借りた土地に建物を建てられる借地権は、地主の許可がなくても相続できます。しかし、地主の承諾が必要な場合や相続の方法を理解しておかないと、思わぬトラブルを招く恐れがあります。
本記事では、借地権の主な種類と地主の許可が必要な場合のほか、名義変更の流れや必要書類などを解説します。
相続不動産の売却について詳しく知りたい方は「相続から不動産を売るまでの手順と注意点」もご覧ください。
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幸谷 泰造
ソニー株式会社で8年半会社員として勤めた後弁護士となり、大手法律事務所において契約書チェックから訴訟まで幅広い法律業務に従事。
自ら一棟アパートを所有する不動産投資家であり、不動産に関する法律問題に詳しい。
Contents
1.借地権の主な種類
ここでは、借地権の主な種類である「普通借地権」「旧借地権」「一般定期借地権」について解説します。
- 普通借地権
- 普通借地権とは、権利の存続期間の更新が可能な借地権です。存続期間は、契約後の最初の期間が30年、初回の更新後は20年、2回目以降の更新では10年と定められています。ただし、当事者間の合意により、これよりも長い存続期間を定めることも可能です。
契約が終了した際は、建物を撤去し更地にしてから土地を返還します。ただし、条件を満たす場合には、契約終了時に建物の買い取りを地主に請求する、建物買取請求権を行使することもできます。
- 旧借地権
- 旧借地権は、1992年(平成4年)7月31日に廃止された旧借地法に基づく借地権です。旧借地法廃止までに契約が締結され、現在も効力が継続している契約については、引き続き旧借地法が適用されます。
現行の借地権とは異なり、旧借地権では建物の堅固さによって、権利の存続期間が定められています。例えば、鉄筋コンクリート造など堅固な建物は60年、木造など非堅固な建物は30年が存続期間です。
- 一般定期借地権
- 一般定期借地権は、権利の存続期間に期限がある定期借地権の一種です。存続期間は50年以上と定められ、原則契約の更新はできません。
契約が終了した際は建物を撤去し、更地にして土地を返還します。定期借地権には一般定期借地権のほかに、事業用定期借地権や建物譲渡特約付き借地権もあります。
借地権については、以下の記事で詳しく解説しています。
2.借地権は地主の許可がなくても相続できる
借地権は、地主の承諾がなくても相続できます。民法では、「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」としています。
しかし、「相続」は相続人が被相続人の権利や財産を包括的に承継するものであり、一般承継と呼ばれます。一般承継は、特定の第三者に権利などを譲り渡す特定承継である「譲渡」にあたらないため、借地権の相続に地主の承諾は不要なのです。
また、建物の名義を借地人から変更せずに第三者に建物を貸す場合や、共有で相続した借地権の持ち分をほかの共有者へ移転する場合、原則として地主の承諾は必要ですが、ほかの共有者へ移転する場合には、信頼関係を破壊したとは言えないため、通常は、承諾が不要であると言えるでしょう。
ただし、次のような場合は、地主の承諾が必要となります。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
2-1.法定相続人以外の方への遺贈は地主の許可が必要
遺言などにより、借地権を法定相続人以外へ遺贈する場合は、地主の許可が必要です。遺贈は、権利を受け取る方が法定相続人ではないため、一般承継である「相続」にあたらず、地主の許可が必要な「譲渡」に該当します。
地主の許可がないまま遺贈してしまうと、民法612条の借地権の無断譲渡に該当することになり、地主に契約を解除される恐れがあります。
また、遺贈などの譲渡を行う際は、譲渡承諾料を支払うのが慣例です。譲渡承諾料は、借地権価格の10%ほどが相場になっています。
2-2.相続した借地権の売却は地主の許可が必要
相続した借地権を売却する場合も、地主の許可が必要です。借地権を売却して他人の名義に変更する行為は譲渡にあたり、民法で地主の承諾が必要と定められています。
地主が譲渡を許可しない場合は、裁判所に借地非訟を申し立てることで、地主の代わりに許可を求めることができます。
借地非訟は譲渡のほかに、借地権契約において、建物の条件変更や増改築に地主の許可が必要と定めてあり、これらのための許可が得られない場合にも利用できます。
また、借地権を売却する場合も遺贈の場合と同様に、借地権価格の10%程度の譲渡承諾料を地主に支払います。
2-3.相続後の家の建て替えは地主の許可が必要(借地契約の更新後)
借地権の相続後に借地上の家を建て替える場合も、地主の承諾が必要な場合があります。
借地上の家を建て替える場合に地主の承諾が必要になるのは、以下の2つの場合です。
- 増改築禁止特約がある場合
- 借地契約の更新後
1つ目は、増改築禁止特約がある場合です。この場合、借地上の家を建て替えることは原則としてできません。建て替えるためには地主の承諾が必要です。しかし、増改築禁止特約がある以上、地主の承諾を得るのは難しいのが一般的です。
2つ目は、借地契約の更新後に借地上の家を建て替える場合です。
借地契約の更新後、地主の承諾を得ずに、借地権の残存期間を超えて存続する建物を建てた場合、地主から借地権の契約を解約される恐れがあります。
そのため、借地契約の更新後に建て替えを行う際は、あらかじめ地主に建物の建築についての承諾を得ることが重要です。
なお、借地契約の更新前については、借地権者が地主に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知したときから2か月以内に異議申立てがなかった場合、地主は建築を承諾したものとみなされます。
建て替えの際も、地主に承諾料の支払いが必要です。建て替えの承諾料は、更地価格の3~5%が相場となっています。
3.借地権の名義変更の流れと必要書類
ここからは、相続に伴って借地権の名義変更を行う際の流れと、必要書類について解説します。
3-1.借地権の名義変更の流れ
借地権の名義変更は、以下の流れで行います。
(1)建物と借地の権利関係を確認
借地権の名義変更では、借地に建つ建物の所有権の名義変更と、借地に借地権が登記されている場合には、登記されている借地権の名義変更の2つが必要です。
まずは、法務局で建物と借地の全部事項証明書(登記簿謄本)を取得し、建物と、借地権が登記されている場合の借地権の名義が被相続人であることを確認します。
実際には、借地に借地権が登記されていないケースもあるでしょう。このような借地権が未登記の場合でも、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、第三者に借地権を対抗できます。
そのため、借地へ新たに借地権を登記することはせず、建物の名義変更のみで手続きを進めることも多いようです。
(2)司法書士に名義変更を依頼
借地権の名義変更は自分で行うこともできます。しかし、司法書士に依頼したほうが安心であり、手間もかかりません。
相続による借地権の名義変更であることを司法書士に伝え、費用を確認したうえで依頼しましょう。
(3)必要書類を準備
次に、名義変更に必要な書類を準備します。具体的な書類はこのあと紹介しますが、状況によっては追加の書類が必要になることもあります。念のため、司法書士に必要書類を確認したうえで準備しましょう。
(4)登記申請を行う
名義変更の申請書に必要事項を記入したら、必要書類を添付して管轄の法務局に提出し、登記申請を行います。その後、法務局による審査が行われ、問題がなければ名義変更が完了します。
2024年4月1日より、相続人は相続による不動産(土地・建物)の取得を知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務化されました。
正当な理由なく相続登記を怠った場合は、10万円以下の過料が科される恐れがあります。不動産(土地・建物)借地権を相続した際は、速やかに名義変更を行いましょう。
3-2.借地権を相続するための必要書類・費用
ここでは、相続した借地権を名義変更する際に必要な書類と、かかる費用について解説します
必要書類
借地権を相続するための必要書類は、以下のとおりです。
書類名 | 取得先 |
---|---|
被相続人の出生から死亡までの 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) |
市区町村役場 | 被相続人の住民票の除票 または戸籍の附票 |
市区町村役場 |
相続人全員の現在の (戸籍全部事項証明書)戸籍謄本 |
市区町村役場 |
相続人全員の住民票 または戸籍の附票 |
市区町村役場 |
相続人全員の印鑑証明書 (遺産分割協議書を作成する場合) |
市区町村役場 |
固定資産税評価証明書 | 市町村役場(東京23区は都税事務所) |
遺言書または遺産分割協議書 | 相続人所有 |
所有権移転登記申請書 | 法務局 |
必要書類の中の遺産分割協議書は、相続人同士で遺産分割について話し合った内容を記した書類です。相続の内容や相続人の人数によっては、完成までに数か月や、1年以上の時間がかかることも珍しくありません。
費用
借地権の名義変更を行う場合、登録免許税と司法書士報酬が発生します。
相続による名義変更の登録免許税は、以下のように定められています。
借地権の名義変更:土地の固定資産税評価額の0.2%
相続による所有権移転登記の司法書士報酬の相場は、日本司法書士会連合会の資料によると、およそ6万5千円となっています。
出典:“司法書士の報酬アンケート結果(2018年(平成30年)1月実施)”. 日本司法書士会連合. (参照2024-08-07)
3-3.借地権には相続税がかかる
借地権を相続すると、相続税がかかります。借地権の種類ごとに定められた計算方法によって借地権の相続税評価額を算出し、ほかの相続財産も含めた総額に対し課税されます。
一般的な借地権の相続税評価額は、路線価あるいは倍率方式によって計算した土地価格に、地域ごとに定められた借地権割合を乗じて算出します。
仮に路線価が20万円、土地面積が200平米、借地権割合が70%の借地権ならは、以下のように計算します。
借地権割合は30%から90%の間で定められ、国が公表する路線価図・評価倍率表で確認できます。
相続税の計算は複雑になることが多く、具体的な額は税理士などに確認したほうが安心です。相続税が高額になりそうな場合には、借地権の売却を検討してもよいでしょう。
4.借地権を相続する際のトラブル防止策
借地権の相続の過程では、思わぬトラブルが発生することがあります。ここでは、同じ相続人である兄弟との間で起きるトラブルの防止策と、地主との間で起きるトラブルの防止策についてそれぞれ解説します。
4-1.兄弟でのトラブルを防ぐ方法
借地権を共有の財産として相続すると、借地権や借地上の建物を売却する際に、共有者全員の同意が必要になります。そのため、兄弟間で借地権の売却について意見が割れてしまうと、対立を招く恐れがあるのです。
このようなトラブルを避けるため、借地権を相続する際は、共有ではなく特定の相続人の単独所有をおすすめします。相続人が一人であれば、個人の判断で売却や賃借、建物の建て替えなどができるため、兄弟間の対立を防ぎやすくなります。
単独所有に対してほかの兄弟から不満が出るようであれば、借地権を売却して現金化し、兄弟で分け合うことも検討してみましょう。
4-2.地主とのトラブルを防ぐ方法
借地に建っている家を建て替える際に、建物を子の名義にする場合は、地主に建て替えの許可とともに建物の名義変更の許可も得るようにしましょう。借地人とは異なる名義の建物を建てることは借地権の転貸にあたり、地主の承諾が必要です。
家族だから大丈夫だろうと、安易に子の名義で建て替えてしまうと、地主とトラブルになる恐れがあります。
また、相続による建物の名義変更に地主の承諾は不要ですが、相続のために建物の名義人が変わったことは地主に伝えるようにしましょう。
法的な義務がなくても、しっかりと連絡することで地主と良好な関係を築けます。そうすれば、将来、借地権の売却や建物の建て替えを検討する際に、承諾を得やすくなるはずです。
5.借地権は相続放棄できる
借地権の相続が難しい場合は、相続放棄をすることも可能です。建物を利用する予定がない場合や、相続税や賃料が負担になりそうな場合は、相続放棄を検討してもよいかもしれません。
この場合、相続を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述し、受理されれば相続放棄ができます。
ただし、相続放棄をすると、借地権だけでなく、ほかの財産や権利も相続できなくなります。相続放棄を行うかどうかは、周囲とよく話し合いし、慎重に判断するようにしましょう。
亡くなった親の家の売却方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
相続した借地権と建物の売却を考えるなら、借地権についての知識が豊富な不動産会社に依頼すると安心です。
NTTデータグループが運営する「不動産売却 HOME4U(ホームフォーユー)」の一括査定サイトを利用すれば、最大6社にまとめて査定を依頼できます。
査定依頼の際は借地権付き物件であることを伝え、実績のある不動産会社に相談しましょう。
まとめ
借地権は相続が可能で、相続に地主の許可は不要です。ただし、法定相続人以外に遺贈する場合や、借地権を売却する場合など、相続以外で名義を変更する際は地主の許可が必要となります。
借地権の名義変更は、司法書士に依頼して行うのが一般的です。この際に必要な費用としては登録免許税と司法書士報酬があり、さらに相続税もかかります。
借地権を兄弟で共有したり、建て替えの際に地主の許可を得ずに建物を子の名義にしたりすると、トラブルを招く恐れがあります。
借地権を相続しても使う予定がない場合や、賃料や相続税が負担になるという場合は、相続放棄も可能です。ただし、相続放棄を選択すると借地権以外の財産も相続できなくなるため、売却を検討してみるのもよいでしょう。