マンションは築年数を経て老朽化が進むと、建て替えが検討されることがあります。
しかし、実際に建て替えに至るケースはごくわずかです。
本記事では、マンションの建て替えの費用相場や流れのほか、建て替え費用が支払えない場合の選択肢についても解説します。
「自己負担額の目安」や「建て替えに至る流れ」など、いざというときのためにも、把握しておきましょう。
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Contents
1.建て替えを行うマンションが少ない理由とは?
前述の通り、マンションは築年数が経ち老朽化が進むと、建て替えを検討することがあります。しかし、実際に建て替えに至るケースは少ないのが現状です。
出典:“マンションを取り巻く現状について(1)”. 国土交通省. (参照2024-05-20)
国土交通省が行ったマンションの建て替えに関する調査によると、建て替え実施中と工事完了済みを合わせて約300棟です。
この300棟のなかには、老朽化による建て替えだけでなく、再開発による建て替えも含まれていると考えられるため、老朽化による建て替えは300棟よりも少ない可能性が高いでしょう。
このように建て替えを行うマンション数が少ないのはなぜなのでしょうか。詳しく解説します。
1-1.住民の合意が得られない
マンションの建て替えには、住民の費用負担が重かったり、建て替え中に仮住まいを用意しなければならなかったりするため、住民から反対されるケースが多いです。
マンションの建て替えには、4/5以上の住民が合意する必要があります。そのため、住民の反対が多ければ、建て替えることができません。
しかし、それでは老朽化したマンションの建て替えが進まないため、現行の区分所有法にある4/5以上の住民の合意を得る必要があるという条件を緩和し、耐震性などに問題がある場合は、3/4以上の住民の合意があれば、建て替えが可能になる改正が検討されています。
1-2.建て替えには大きな負担が発生する
マンションの建て替えにかかる費用は原則、住民が負担します。自己負担額の相場は、一戸あたり1,000万円~3,000円と言われています。
費用の内訳は、解体費用、設計費用、建築費用、事務費用などです。
マンションの規模やグレードによっては、解体費用や建設費用が相場よりも高額になることもあります。
このように住民の負担額が大きいことが、マンションの建て替えが難しい一番の理由です。
1-3.現行の法律の基準を満たしていない建物の可能性がある
現行の法律で定められている基準を満たしていない建物である場合、建て替えに踏み切れないケースもあります。
このような建物のことを「既存不適格建築物」と言い、建設された当時の法律に問題がなかったとしても、その後の法改正や都市計画区域などの変更により、現在の法律の基準を満たしていないのです。
法律が改正されたとしても、それ以前に建てられたマンションであれば問題ありませんが、建て替えを行うとなれば、現行の法律に適合させる必要があります。
特に1981年5月31日までの旧耐震基準で建てられたマンションは、新耐震基準で建て替えなければならないため、住民の費用負担も大きくなります。
そのほか、既存不適格建築物とみなされるマンションには以下のような例があります。
- 建ぺい率や容積率の変更
- 高さ制限の変更
- 建築物に対して幅員4メートル未満の道路が接している
一例として容積率の変更により、現在のマンションの容積率が超過していたら、再建築するマンションは、住宅の床面積や住居の数を減らすといった対策が必要になります。
以上のことから、マンションを建て替えは、住民にとってメリットが少なく、難しいのが現状です。
お持ちのマンションを建て替える話題になり、このまま住み続けてもいいかお悩みでしたら、不動産会社に話を聞いてみるのも手です。
2.マンションの耐用年数と建て替えの関係
マンションの耐用年数には、主に「法定耐用年数」「物理的耐用年数」「経済的耐用年数」の3つがあります。これらはマンションの建て替えと関係しているのでしょうか。
それぞれの耐用年数の違いは以下のとおりです。
耐用年数の種類 | 特徴 | 耐用期間 |
---|---|---|
法定耐用年数 | 減価償却費を計上できる会計上の年数 | 47年 |
物理的耐用年数 | 物理的に建物に住める期間 | 60年~100年程度 |
経済的耐用年数 | 建物に経済的な価値が残っている年数 | 40年~50年程度 |
法定耐用年数は、唯一法的に定められた耐用年数ですが、実際の耐用年数とは異なるため、建て替えの基準にならないと言えるでしょう。
また、経済的耐用年数は築50年超のマンションは、建物の価値がなくなることを示しており、土地の価格だけで取引されるケースがほとんどです。わかりやすく伝えると、物理的に住める年数を示したものが物理的耐用年数であり、住みやすい年数を示したものが経済的耐用年数と言えます。
したがって、経済的耐用年を超えたマンションは建て替えが検討される可能性があります。その詳しい理由については、「6.マンションの建て替えを行う平均築年数は40年前後」をご覧ください。
3.マンションの建て替え費用相場
マンション建て替えにかかる平均的な費用は、1戸あたり1,000~3,000万円が相場と言われています。
前述のとおり、マンションのグレードによってはさらに高額になることもありますが、一方でほとんど負担なく建て替えができる事例もあり、条件によって費用は大きく異なります。
また、マンションが建て替えになった場合、負担が必要になるのは建て替え費用だけではありません。
建て替え工事中は仮住まいが必要になるため、初期費用や2回分の引っ越し費用、1~2年分の家賃などがかかります。
したがって、建て替え費用に加えて、200~500万円程度かかることを認識しておきましょう。
“修繕積立金は建て替え費用に充てられない”
区分所有マンションでは、設備の修繕のために修繕積立金がプールされているため、その費用を建て替え費用に回せばよいのではと考える方もいるでしょう。
しかし、修繕積立金は原則として建て替え費用に充当することは認められていません。
管理組合の多くは国土交通省が定めた「マンション標準管理規約」を採用しており、修繕積立金の建て替え費用への流用を禁止されています。
ただし例外的に、マンションを建て替えすべきかを調査するための費用には修繕積立金を使用できます。
なお、建て替えが決まった場合、その時点で残っていた修繕積立金は、清算して所有者に返還されます。
また、マンション利用規約を変更すれば、修繕積立金の活用も可能ですが、築年数が経過しているマンションはすでに大規模修繕済み、あるいは老朽化にともなって修繕費用が増大しています。
そのため、そもそも修繕積立金が残っていないことも多いようです。
4.マンションの建て替えの自己負担額は条件によって大きく変わる
マンションの建て替えの自己負担額は、マンションの建て替え条件によっても大きく異なります。
それぞれどのような例が想定されるのか解説します。
4-1.マンションの建て替えの自己負担額が少ないケース
建て替えの負担額の大きさと建て替え規模は、直接関係するとは限りません。
建て替えにより戸数が増やせる場合は、一般的に費用の負担は少なくなります。
増えた戸数分の売却益を建て替え費用に充てられるため、1戸あたりの負担額を軽減・ゼロにできる可能性もあります。
4-2.マンションの建て替えの自己負担額が多いケース
一方、すでに容積率いっぱいで建て替えにあたり戸数を増やせない場合は、負担額が大きくなる可能性が高いでしょう。
容積率とは、敷地面積に対する延床面積の割合のことです。そのため、容積率の制限以上に床面積を増やすことはできません。
また、地方や駅遠いのマンションなど人気のないエリアは、建て替え後の売却が難しいため、自己負担額が大きくなりやすいでしょう。
5.マンションの建て替えの流れ
前述のとおり、マンションの建て替えは、住民の合意が4/5以上に達したうえで実施されます。
しかし、合意形成は難しく、手続きも煩雑です。
実際に建て替え準備に取り掛かってから工事完了までに、10年以上かかるケースが多く、建て替えの計画が浮上しても、合意が得られず頓挫してしまうことも少なくありません。
マンションの建て替えが行われるまでの流れは、大きく分けて以下4ステップです。
それぞれについて、詳しく紹介します。
5-1.専門家を交えて話し合う
建て替えの準備段階として管理組合が専門家を交えて建て替えを検討すべきかの協議や、住民向けの勉強会を実施します。
ゼネコンやディベロッパーは、勉強会のサポートや建て替えについて具体的な金額や計画の提示なども行っているのです。
建て替えの選択肢が現実的であれば、具体的に検討を始めます。
5-2.「修繕か建て替えか」を決める
さらに検討を進め、建て替えを行うか、大規模修繕を行って建て替えを延長するかを審議・検討します。
建て替えを進めることになった場合、住民アンケートやアナウンスなどを行い、住民の合意を得られるよう活動します。
なお、建て替えを進めることについて管理組合で住民の合意を得ることを、「建て替え推進決議」と言います。
建て替えの実施には、区分所有法において住民の4/5以上が合意する「建て替え決議」が必要ですが、この段階で行うのは具体的な計画開始に対する基本合意です。
建て替え推進決議は必須ではありませんが、建て替えを進めていくには住民の3/4以上が計画開始に合意していることが望ましいとされています。
5-3.建て替え検討委員会を立ち上げて具体的な計画を立てていく
建て替え推進について住民の合意が得られれば、建て替え検討委員会を立ち上げます。
建て替え検討委員会では、建て替えを依頼するゼネコンやマンションデベロッパーを選定し、具体的な建て替え計画の策定を開始します。
建て替え費用や、部屋数を増やす場合に見込める収入など具体的な数字を出して計画を策定した後、住民に説明会を実施し、建て替え決議を行います。
建て替え決議で住民の4/5以上の合意が得られたら、建て替え実施の決定となります。
5-4.建て替え工事を開始する
マンション建替え円滑化法に基づき、賛成者の3/4以上の合意と都道府県知事の認可を得て、法人格を持つ建て替え組合を設立します。
建て替え組合を設立することで、建て替えに必要な以下の諸手続きや権利者の調整を、組合が主体となって行うことができます。
- 建て替え不参加者に対する売り渡し請求
- 建て替え後の区分所有権・敷地利用権・住宅ローン抵当権などの権利変換計画の策定・認可申請
入居者が仮住まいに転居したら、建て替え工事に着手します。
そして新しいマンションが完成したら、再入居開始と同時に新しい管理組合を設立します。
6.マンションの建て替えを行う平均築年数は40年前後
東京カンテイが実施している建て替え事例の検証によると、2022年時点で建て替えに至ったマンションの平均築年数は40.3年です。
築年数分布を見ても40~50年未満が最多で、築30~40年未満が続きます。
このように建て替えをするマンションは築40年前後が多くなっていますが、建物の状況によって年数はまちまちです。
マンションには、建て替え時期について法的な定めはなく、築年数が経過したマンションであっても、建て替えに至るケースは限られています。
しかし、老朽化の程度はコンクリートや配管設備などの状態が関係するため、マンションによって大きく差があるのが実情です。
近年のマンションは黎明期に比べてメンテナンス性が高まっている構造になっており、建て替えまでの年数が長期化している傾向があります。
参考:“マンション建替え寿命・面積変化”. 東京カンテイ. 2022-10-31. (参照2024-05-21)
7.マンションの建て替え決定後の2つの選択肢
マンションの建て替えが決まった後の所有者の選択肢は、以下の2つです。
それぞれ、どのような流れになるか、メリット・デメリットを含めて解説します。
7-1.費用を負担し再入居
建て替えに合意する場合は、建て替え費用を負担し、完成後に再入居することになります。
建て替えで再入居を選択した場合、費用負担こそ大きいものの、新築マンションを購入するよりは安く済むケースが多いでしょう。
住み慣れた場所で再び生活を始められることもメリットです。
また、建て替え後に建物がグレードアップすれば、資産価値は上がります。
したがって、建て替え費用を捻出できるのであれば有効な選択肢といえるでしょう。
なお、建て替え費用は、引き渡し時に支払う必要があるため、費用が高額な場合は、新たに住宅ローンを組む必要があります。
7-2.払えない場合は売却して立ち退く
建て替えに合意できない場合や立て替え費用を用意できる目途が立たない場合は、売却して立ち退きすることになります。
マンションの建て替え決定後、合意しない場合は、建て替え組合が時価で持分を売却することを求める「売渡請求」を行いますが、この請求は拒否することができません。
修繕積立金が残っている場合は、清算金が戻ります。
なお、建て替えが決まっていても、買い手がいれば売渡請求前に売却することが可能です。
新築マンションの建設が難しい地域の場合、新築に住みたいと考えている方が建て替えを見込んで購入するというニーズがあるのです。
一般的に建て替え予定があるマンションは買い手が限られるため、安価になりますが、この場合は売渡請求額よりも高値で売却できる可能性があります。
そのため、売却を考えている方は、不動産会社に建て替えが行われることを伝えたうえで査定を依頼しましょう。
査定額はもちろん、売り方やノウハウは不動産会社に異なるので、複数社に査定を依頼し比較することが大切です。
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この記事のポイントまとめ
マンションのグレードや環境によって異なりますが、1戸あたり1,000~3,000万円と言われています。
詳しくは「3.マンションの建て替え費用相場」をご覧ください。
建て替えには大きな費用がかかりますが、建て替えにより戸数が増やせる場合は販売代金が見込めるので、住民の負担額が軽減されるケースがあります。
詳しくは「4.マンションの建て替えの自己負担額は条件によって大きく変わる」をご覧ください。
マンションの建て替えは、以下の4つの段階を経て進められます。
- 専門家を交えた話し合い
- 修繕と建て替えとの比較検討
- 建て替え検討委員会による具体的な検討
- 工事開始
詳しくは「5.マンションの建て替えの流れ」をご覧ください。
マンションの建て替えは平均築40年前後で実施されています。しかし、現実には建て替えは困難で、大規模修繕やリフォームで代替されることが大半です。
詳しくは「6.マンションの建て替えを行う平均築年数は40年前後」をご覧ください。