不動産を相続したら、必要になる手続きが「相続登記」です。
相続登記には法律上の期限はありませんが、早めに手続きをしておかないと様々な不都合が生じるので、忘れないうちに済ませてしまうことをおすすめします。
相続登記は、登記のプロである司法書士に5~10万円前後で依頼することができます。
費用を節約したい場合には、手間はかかりますが自分で手続きすることも可能です。
これから、司法書士に頼む場合と自分で手続きする場合について、それぞれ詳しく解説していきます。
相続登記に自分で挑戦してみるかどうか、検討してみてくださいね。
相続後の不動産売却を考えている方は、『不動産売却の基本』も併せてご覧ください。
Contents
1. 相続登記とは
不動産を所有している人が亡くなったら、必要になるのが「相続登記」。
相続登記のしくみと、その必要性について押さえておきましょう。
1-1.相続登記ってなに?
まず「登記」とは、不動産についての正確な情報を提供するための制度です。
不動産の登記簿には、土地や建物について、所在地・面積・所有者などの情報が記載されます。
登記簿は、全国の法務局で管理されていて、手数料を払えば誰でもその内容を確認することができます。
亡くなった人が土地や建物を所有していた場合には、登記簿は、故人の名義になっているはずです。
そこで、相続が発生したら、登記簿の名義を相続人の名義に変更する手続きが必要になります。
この名義変更手続きを、「相続登記」といいます。
相続登記は、いつまでに手続きしなければいけない、という法律上の期限はありません。
「手続きしてください」というお知らせが届くわけでもありませんし、相続登記しなくても、特に罰則などはありません。
でも、相続登記は早めに済ませておくのが得策です。
1-2.相続登記しないとどうなる?
相続登記をしておかないと、あとで困ることになってしまう確率が大きいので注意しましょう。
その理由は大きく3つあります。
売却などができない
不動産が亡くなった人の名義になったままだと、その不動産を売却したり、借り入れの担保にすることなどができません。
法律的には不可能ではありませんが、不動産が亡くなった人の名義になったままだと、正当な権利関係を確認できないので、そのような不動産を取引する人はいないからです。
せっかく受け継いだ大切な財産をスムーズに有効活用できないのは、もったいないですね。
次の相続が起きると手続きが大変
相続登記をしないまま放置しているうちに、相続人の一人が亡くなってしまったら、相続登記の手続きはますます面倒になります。
例えば、祖父が亡くなったときに相続登記をせずに放置しているうちに、父親が亡くなってしまった場合、その子供たちが手続きをしなければなりません。
さらに子供が亡くなってしまったら、孫の代が手続きをすることになります。
このように、関係する人の数が増えていくと、相続登記の手続きを行うために、書類に署名したり必要書類を集めなければならない人数がどんどん増えてしまいます。
場合によっては、権利関係が複雑すぎたり、関係人が多すぎて、もはや相続手続き自体がほぼ不可能になってしまうこともあります。
トラブルの危険
相続登記をしておかないと、他の相続人が、「自分が一人で相続した」と偽って第三者に売却してしまうなど、トラブルが起きる危険があります。
相続が発生したら、なるべく早めに登記をして、正しい権利関係を明らかにしておくことが大切です。
1-3.相続登記は自分でできる?
相続登記は、登記のプロである司法書士に依頼すれば簡単に行うことができます。
ただし、手間はかかりますが、自分で行うことも可能です。
3章では司法書士に依頼する方法、4章では自分で行う方法を解説するので、見比べてみてください。
司法書士への手数料を節約したいときや、登記に興味がある人は、自分で挑戦してみてもいいですね。
忙しい人、難しそうでやりたくない人、相続人が多くて権利関係が複雑な場合などは、司法書士に依頼すると安心です。
1-4.相続した不動産の分け方はどうやって決める?
では、相続した不動産の分け方はどうやって決めて、相続登記したらよいのでしょうか?
相続登記の方法には主に3つあります。
遺言書による相続登記
遺言書が残されていた場合には、基本的に、遺言書の内容に従って相続登記します。
遺産分割による相続登記
遺言書がない場合には、遺産の分け方について相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を行います。
遺言書があった場合にも、相続人全員が同意すれば、遺産分割協議によって遺言書の内容と異なる分け方をすることができます。
遺産分割協議を行ったら、「遺産分割協議書」を作成して相続登記します。
法定相続による相続登記
遺言書がなく、遺産分割協議も行わずに、「法定相続分」で不動産を分ける方法もあります。
この場合、民法で決められた割合どおりに財産を分けます。
例えば、相続人が配偶者と子供だけの場合、妻が2分の1、子供が2分の1となり、子供が2人以上いるときは原則として均等に分けます。
2. 相続登記の費用
相続登記に必要な費用は、次の3つです。
- 登録免許税
- 戸籍謄本、住民票などの取得費用
- 司法書士に依頼する場合の手数料(自分で行うなら不要)
それぞれ見ていきましょう。
登録免許税
相続登記を行う場合に法務局に支払うのが、登録免許税です。
登録免許税は、固定資産税評価額の0.4%です。
そのため、不動産の価値が高ければ高いほど、登録免許税も高くなります。
例えば、固定資産税評価額が2,000万円の場合、登録免許税は2,000万円×0.4%=8万円です。
固定資産税評価額は、「固定資産税評価証明書」を市役所等で取得するか、毎年支払っている「固定資産税納税通知書」で確認することができます。
戸籍謄本、住民票などの取得費用
後ほど詳しく説明しますが、相続登記を行う際には、亡くなった人の戸籍謄本や、住民票、相続人の印鑑証明書などの添付資料が必要になります。
戸籍謄本等の取得手数料は1通あたり数百円で、遠方の市町村役場から取り寄せる場合には送料なども必要です。
人によって違いますが、全部で数千円程度かかると思っておきましょう。
司法書士に依頼する場合の手数料
相続登記を司法書士に依頼する場合には、手数料(司法書士への報酬)が必要です。
報酬の相場は5~10万円前後ですが、不動産の数や相続人の数によって、報酬は異なります。
また、「遺産分割協議書」についても司法書士に作成を依頼する場合には、別途費用がかかります。
もちろん、自分で相続登記の手続きを行う場合には、これらの手数料は不要です。
3. 相続登記を司法書士に依頼する場合の必要書類と流れ
相続登記は、全国どこの司法書士に頼んでもかまいません。
司法書士へ支払う報酬と合わせて、交通費や通信費についても事前に確認しておきましょう。
相続登記を司法書士に依頼する場合に必要な書類は、次のとおりです。
- 司法書士への委任状
- 相続人の印鑑証明書
- 遺産分割協議書または遺言書(あれば)
次の章で詳しく説明しますが、相続登記をするには、戸籍や住民票など、様々な添付書類が必要です。
でも、相続登記を司法書士に依頼した場合、印鑑証明書以外の必要書類は代理取得してもらうことができます。
相続登記を司法書士に依頼すると、自分で準備する書類が少ないのも大きなメリットです。
特に、亡くなった人の戸籍謄本を自分で準備しようとすると、出生から亡くなるまでの戸籍謄本をすべて揃えるのは大変なので、司法書士に依頼すると手間が省けます。
4. 相続登記を自分で行う場合の必要書類と流れ
相続登記の全体の流れは、次のとおりです。
- 遺産分割協議書を作成する
- 必要書類を集める
- 登記申請書を作成する
- 法務局に書類を提出する
- 登記完了後に書類が返却される
それぞれの内容を細かく見てみましょう。
4-1.遺産分割協議書を作成する
相続人全員で話し合った遺産の分け方を、「遺産分割協議書」に記載します。
遺言書がある場合や、法定相続分で相続する場合には不要です。
遺産分割協議書の記載例は、このあと説明する「登記申請書」の記載例とともに、法務局のホームページからダウンロードできます。
遺産分割協議書のサンプル
法務局「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」
遺産分割協議書には、全ての相続人が実印を押印します。
遺産分割協議書の作成だけを行政書士等に依頼することもできます。
4-2.必要書類を集める
必要書類は、次のとおりです。
亡くなった人の戸籍謄本
亡くなった人が、出生してから亡くなるまでの全ての戸籍謄本を取得します。
過去に本籍地を移転している場合には、さかのぼって複数の市区町村役場から取り寄せる必要があります。
特に古い戸籍は手書きで非常に読み取りにくい場合も多いですが、漏れがないよう、根気よく集めてください。
前妻との間に子供がいることが判明する場合などもあるので、戸籍をよく確認して、相続人を確定させます。
亡くなった人の住民票の除票
登記簿上の住所及び本籍地の記載のあるものが必要です。
相続人全員の現在の戸籍謄本
過去にさかのぼる必要はなく、現在の戸籍謄本だけ必要です。
相続人の住民票の写し
その不動産を取得する相続人の住民票が必要です。
固定資産税評価証明書
固定資産税評価証明書は、最新の年度のものを市区町村役場で取得します(東京都23区は都税事務所で取得します)。
なお、法務局によっては、市町村から毎年送られてくる「固定資産税納税通知書」を添付書類として使うことができます。
相続人全員の印鑑証明書
法定相続分どおりに相続する場合には不要です。
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
登記事項証明書は、全国の法務局で取得できますが、郵送やインターネットで請求することもできます。
登記事項証明書は、相続登記の添付資料として提出する必要はありませんが、登記申請書を作成するときに不動産の面積などの情報を正確に記載するために取得しておきます。
4-3.登記申請書を作成する
登記申請書は、役所に備え付けられている専用の用紙の枠内を埋めるようなものではなく、自分で作成する必要があります。
作成方法は、パソコンでも手書きでもOKです。
登記申請書のひな形は、法務局のホームページからダウンロードできます。
相続の書式は、下記の項目18から22にあります。
法務局「登記申請書の様式及び記載例」
記載方法で迷う部分があったら、わかるところだけを記載して法務局に行き、相談窓口で教えてもらいながら書類を完成させるのがおすすめです。
ほとんどの法務局で、相談窓口は予約制になっているので、あらかじめ問い合わせてから行きましょう。
法務局に行くときには、その場で訂正できるように、登記申請書に押印する印鑑も持参しましょう。
登記申請書を作成したら、登録免許税の額面分の収入印紙を登記申請書の余白に貼り付けます。
収入印紙に割印をしてはいけないので注意しましょう。
4-4.法務局に書類を提出する
必要書類が揃ったら、相続する不動産を管轄する法務局へ提出します。
管轄の法務局は、不動産の所在地ごとに決まっています。
法務局のホームページで調べるか、電話で問い合わせてみましょう。
法務局「各法務局のホームページ」
管轄の法務局が遠くて行けない場合や、平日に持参できない場合には、郵送で提出することも可能です。
郵送の際に、返信用の封筒と切手も同封しておけば、登記完了後の返却書類も郵送してもらうことができます。
ただし、書類に誤りがあった場合には、管轄の法務局に行って訂正しなければなりません。
そこで、郵送する書類の記載内容に不安がある場合は、法務局の相談窓口で書類のチェックを受けてから郵送すると安心です。
管轄の法務局以外でも、書類のチェックだけならやってもらえることが多いので、法務局に相談してみてください。
なお、申請時の書類は、登記完了後に全て返却されるわけではありません。
遺産分割協議書や戸籍謄本なども、「原本還付」の手続きをしないと返却されないので、注意しましょう。
原本還付は、返却を希望する書類をコピーして、そのコピーに「原本の写しに相違ありません」と記載し、申請人が署名捺印します。
また、相続人の関係を図示した「相続関係説明図」を作成した場合にも、戸籍謄本の原本は返却してもらうことができます。
相続登記だけのために「相続関係説明図」を作成する必要はありませんが、他の手続きにも利用する可能性があれば「相続関係説明図」を作成しておくと便利です。
相続関係説明図のサンプル
法務局「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」
4-5.登記完了後に書類返却
法務局に提出した書類に誤りがあると、法務局から連絡が来るので、登記申請書に押印した印鑑を持参して法務局に行き、補正(訂正する手続き)を行います。
法務局の混み具合によっても異なりますが、およそ1~2週間程度で登記が完了します。
書類を提出した時点で、登記完了予定日を確認しておきましょう。
登記完了後、提出した書類の一部が返却されるので、法務局に行って受領します。
受領には、登記申請書に押印した印鑑が必要です。
なお、申請の時に返信用封筒を添付しておけば、郵送で返却してもらうこともできます。
登記が完了したら、法務局で登記事項証明書を取得して、正しく相続登記されていることを確認しておくと安心です。
まとめ
いかがでしたか?
相続登記には法律上の期限はありません。
でも手続きしないで放置しておくと、将来、余計な手間がかかることになったり、トラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。
相続登記は自分で行うことも可能ですが、結構な手間と時間がかかるのも事実です。
手続きが不安な人や、時間がない人は、司法書士に依頼して済ませてしまうのもいいかもしれません。
いずれにしろ、相続登記は忘れないうちに早めに手続きをしておくことをおすすめします。