施設に入った親の家は売却すべき?他の選択肢と売却を考えるポイント

施設に入った親の家をどうするか迷われる方もいるのではないでしょうか。

方法としては、所有し続けるか売却するかで大きく分かれますが、所有するとしても空き家のまま維持管理するだけでなく、状況によっては賃貸や土地活用して収入を得ることも考えられます。

また、売却するとしてもタイミングによって、かかる税金の種類や活用できる税制の特例が変わります。

この記事では、施設に入った親の家についてどのような選択肢があり、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるかまとめました。

この記事を読むとわかること

  • 施設入居後の親の家の選択肢
  • 親の家を売却するメリットと注意点
  • 親の家の売却タイミングと税金の関係

不動産の売却について基礎から詳しく知りたい方は『不動産売却の基本』も併せてご覧ください。

1.施設に入った親の家は売却すべき?4つの選択肢で考えよう

施設に入った親の家をどうするか、選択肢は次の4つがあります。それぞれのメリット、デメリットをみてみましょう。

1-1.売却する

親が住んでいた家に誰も住む予定がない、また施設から戻ってくる見通しが立たない場合、売却することが考えられます。

メリット

売却することで、その収入を施設の利用料や生活費にあてられます。
まとまった現金を得られるうえ、固定資産税や修繕などの維持費もかからなくなります。

また、空き家状態を回避することにもつながります。

デメリット

売却した場合、施設を退去することになったときに戻る家がありません。仮に施設を出た後、子どもとの同居を予定している場合でも、長年住み続けてきた家や近所づきあいなども含めて、暮らし慣れた環境に戻りたいと思う人も少なくありません。

1-2.賃貸にする

立地条件などから賃貸需要が見込みやすい場所であれば、賃貸に出し収入を得ることも選択肢の1つです。

メリット

賃貸にするメリットは、家賃収入が見込める点です。収入を施設の利用料や親の生活費、固定資産税などの支払いにも使えます。

また、長期間空き家のままだと建物は傷みやすくなります。誰かが住むことで建物の劣化を抑えやすく、不具合も把握しやすくなります。

デメリット

賃貸するには、リフォームや不具合箇所の補修や修繕、家財の処分などが必要になる場合があります。
これらの初期投資にかかる費用や維持費を考慮したうえで、どれくらいの収益が見込めるかをしっかり検討しなければなりません。

また、賃貸するとしても家賃の回収など日常の管理業務を誰がするか、管理会社に委託する場合、どれくらいの費用がかかるのかを考えることも必要です。
かけられる費用や手間、空室になるリスクへの考慮など、事業への計画性が重要になります。

1-3.土地活用をする

売却と同様に、施設から戻って来る見込みがない場合、建物の解体も含めて土地を活用することが考えられます。

土地活用には、さまざまな方法があります。初期費用がかかりにくいものであれば、駐車場経営やコインパーキング、資材置き場、貸農園としてレンタルするなどが考えられます。

また、立地条件によっては、建物を改装してレンタルオフィスやシェアハウス経営も考えられるでしょう。その他にも、幹線道路沿いで一定程度の広さがあれば、トランクルームや倉庫などの需要も考えられます。

メリット

土地活用することで、活用方法によっては長期的に収益を見込めます。土地活用せずに固定資産税などの維持費を負担するより、経済的メリットがあります。
また、活用方法によってはほとんど手間がかからないものもあるため、ライフスタイルに合わせた収益プランが立てられます。

デメリット

土地活用するとしても、事業に対する綿密な計画が必要です。建物の解体などにかかる初期費用や維持費、設備の損壊などのリスクを考慮し、計画を立てていきましょう。
家を取り壊す場合は、固定資産税が安くなる住宅用地の特例が使えなくなるなど、税金への対応にもご注意ください。

また、事業運営や管理業務を誰がいつまでするのか、長期の視点で時間や手間の負担を考えなければなりません。

1-4.相続時まで空き家状態を維持する

相続が発生するまで空き家の状態で維持することも考えられます。

施設に入ったとしても、やはり自宅に戻りたい意思がある場合もありますし、誰も住まなくても思い出の場所を残しておきたい場合もあるでしょう。

メリット

いつでも住み慣れた家に戻ってこられる点がメリットです。いつ戻れるかが分からなくても、戻る家があることで気持ち的に安心できます。

デメリット

維持管理を継続する必要がある点はデメリットといえます。
また、空き家の状態が長くなると建物は傷みやすいうえ、水回りの設備や給排水などの不具合に気づかない可能性があり、建物の劣化が早くなることもあります。

今日の日本では、空き家問題が深刻化しています。
倒壊の危険性があるなど、管理が行き届いていない空き家は、固定資産税の特例措置を解除される可能性などがあります。

2.施設に入った親が同意するなら売却!おすすめの理由

物件の条件にもよりますが、施設に入った親の同意が得られるのであれば、基本的には売却がおすすめです。その理由について解説します。

2-1.売却金額を老人ホームの利用料等に充てられる

売却することで、売却収入を老人ホームなどの利用料にあてられます。

老人ホームにかかる費用には、入居する際の「入居一時金」と毎月支払う「月額利用料」があります。施設によって価格は異なりますが、介護付き有料老人ホームであれば、月額利用料は、15〜30万円程度が目安です。入居一時金は、数十万円からなかには数百万円かかる施設もあります。

施設で過ごす期間がどれくらいかは分からないことが多いと思いますので、売却しやすいタイミングで売却することも考えるべきでしょう。

民間施設 介護付き有料老人ホーム
住宅型有料老人ホーム
サービス付き高齢者向け住宅
グループホーム
公的施設 特別養護老人ホーム
ケアハウス
介護老人保健施設
介護医療院(介護療養型医療施設)

2-2.不動産の維持費や管理の手間がなくなる

売却することで、家の維持費や管理の手間がなくなります。

不動産の場合、住んでいなくても固定資産税・都市計画税や火災保険料など維持費の負担が必要です。地域や土地建物の大きさ、築年数などで異なりますが、税金と保険料だけでも年間20~30万円程度の費用がかかりますし、空き家の火災保険料は居住中の不動産と比べて高くなる傾向です。

また、空き家の状態で長期間放置すると建物の傷みや老朽化が早くなるため、定期的に換気や掃除、給排水管のチェックなども必要でしょう。

親の家が近ければよいですが、遠い場合交通費や手間がかかります。管理会社に委託する場合、毎月管理費が必要です。売却することで、こういった費用や手間、時間の負担はなくなります。

2-3.空き家状態は様々なリスクがあるため

空き家を所有し続けるリスクも考えたほうがよいでしょう。

長期間空き家を所有すると、害虫や害獣の住みかになったり、放火など犯罪の温床になったりする可能性もあります。また、台風や豪雨などで建物の一部が損壊した場合に放置したままだと、隣接する住戸や通行人に被害を与える可能性があります。

また、年々空き家が増加するなか、2023年(令和5年)12月に空家等対策の推進に関する特別措置法の改正法が施行されました。

同法では、特定空家に指定されると指導、助言から勧告、命令、行政代執行の処分が科される可能性がありましたが、改正法では、特定空家だけでなく管理不全空家にも勧告の対象が広がりました。

勧告を受けた空き家は、固定資産税などの住宅用地の特例が解除されるため、負担が増えます。

詳しくは『国土交通省“空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律”』をご覧下さい。

2-4.空き家状態が長いと税金で損をする可能性がある

空き家の状態が長期間に及ぶと所得税や相続税の面で損をする可能性があります。税金を抑えるための各種特例の適用要件を満たさなくなるためです。

居住用財産を売却する場合、譲渡所得(売却益)から最高3,000万円まで控除できる特例を受けられます。

特例の適用要件として、住まなくなった日から3年を経過する日の年の12月31日までに売却しなければなりません。そのため、施設に入居してから売却までに時間がかかると、特例が適用できず税金の負担が増える可能性があります。

詳しくは『国税庁“No.3302マイホームを売ったときの特例”』をご覧下さい。

また、相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たすことで譲渡所得から3,000万円(相続人の数が3人以上の場合は2,000万円)の控除特例が受けられます。

この特例の適用要件は、相続開始日から3年を経過する年の12月31日かつ特例の適用期限である2027年(令和9年)12月31日までに売却することです。

詳しくは『 国土交通省“空き家の発生を抑制するための特例措置”』をご覧ください。

相続発生前あるいは発生後でも、長期間空き家を保有することで、これらの特例が受けられなくなる可能性があるので注意しましょう。

2-5.親が認知症になると活用が困難になる

認知症になった親が所有する不動産は、親本人や家族が、勝手に売却したり賃貸したりできません。
認知症によって意思能力がなくなった方は、生活基盤がなくなるような法律行為をできないためです。この場合は、家族が代理で売却することもできません。意思能力がないため委任も無効になります。

認知症になった親の不動産を売却する方法として、成年後見制度の活用が考えられます。ただし、家庭裁判所に成年後見の審判の申立てを行い、法定後見人が選任される手続きが必要です。この場合、必ずしも後見人を希望する人が選ばれるとは限りません。

また、親に代わって財産を管理ができるようにする家族信託も考えられますが、信託契約や信託口口座の開設、信託登記などが必要なほか、登録免許税や専門家に依頼する費用が必要です。

3.家を売却するなら今?それとも相続後?

では、家を売却するとして、親が施設に入った段階と相続後、どちらがよいのでしょうか。タイミングによってかかる税金が異なりますので、その判断ポイントについて解説します。

3-1.親が施設に入った時に売却する場合

親が施設に入った時に売却する場合は、相続税は考える必要はなく、譲渡所得によって生じる譲渡所得税だけです。

譲渡所得は売却収入から不動産の取得にかかった費用(減価償却分を考慮します)と売却するためにかかった費用を控除して計算します。

ただし、「2-4.空き家状態が長いと税金で損をする可能性がある」で紹介したように、居住用の不動産であれば3,000万円の特別控除が適用できますので譲渡所得税がかかるケースは少ないといえるでしょう。

3-2.相続後に売却する場合

一方、相続後に売却する場合は、相続税と譲渡所得税がかかる可能性があります。

相続税は、不動産だけで計算するのではなく、預貯金や有価証券など他の相続財産を含めて算出します。

相続した不動産の評価で活用できる可能性があるのが「小規模宅地等の特例」です。自宅を取得した人によって一定の要件がありますが、特例が適用されれば一定限度の面積まで土地の相続税評価額を80%減額できます。

詳しくは『国税庁.“No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)”』をご覧ください。

また、「2-4.空き家状態が長いと税金で損をする可能性がある」で紹介したように、相続で取得した家を売却する場合、譲渡所得から3,000万円の控除を受けられることがあります。
特例の適用には、「被相続人が生前一人で暮らしていた家であること」「相続発生から譲渡まで引き続き空き家状態であったこと」などの条件を満たしている必要があります。

相続前か相続後かは、これらの特例の活用のほか、経済的状況や土地建物の状態なども含めて判断が必要です。

4.親の家の売却を考えるうえでの3ポイント

最後に、親の家を売却するべきか判断するうえでのポイントについて解説します。

4-1.現実的な資金計画について

施設の利用料や医療費にあわせ、固定資産税など維持費の負担を考えると、売却せざるを得ない場合もあります。

また、施設に入居する期間を見通すことは難しく、長期間となれば資金的に厳しくなることもあります。資金的に余裕がない状況でリスクのある賃貸や土地活用は現実的ではなく、売却を優先的に検討すべきでしょう。

4-2.売却した場合の親の住民票について

老人ホームに入居する場合、基本的には住民票を移すことになります。
ただし、住民票の移動が法律上義務付けられているわけではなく、しばらく様子を見て納得できるタイミングで移すことも可能です。

ただし、家を売却した場合、老人ホームへ住民票を移さなければなりません。このとき介護保険料にも注意が必要です。

介護保険は、原則として住民票がある市区町村が保険者となるため、自治体ごとに介護保険料は異なり、介護サービスに違いがある場合もあります。そのため、自宅と施設の自治体が変わる場合、介護保険料などについても事前に調査しておくことが必要です。

また、売却前に住民票を移動している場合、現住所と登記簿上の住所が一致しなくなります。家を売却する場合、現住所と登記簿上の住所が異なっていると申告し住所変更の登記が必要です。

住所変更登記には、登記にかかる登録免許税のほか、司法書士に依頼する場合は報酬が必要です。

4-3.親の希望について

ここまで家を売却するタイミングや所有し続ける負担、リスクなどを紹介しましたが、できる限り、家を所有する親の意向を尊重することが大切です。

本人にとっては、住み慣れた家を売却することは、合理的な判断だけでは決めきれないこともあるはずです。

まずは、売却する場合と所有し続ける場合、所有者である親にそれぞれのメリット・デメリットをしっかりと理解してもらうことも大切です。

長期間所有する場合は認知症になる可能性もあります。成年後見制度の中でも、本人の判断能力が十分なうちに後見人となる人をあらかじめ決めておく「任意後見制度」を活用してリスクを回避しながら、最大限親の希望をくみ取れる方法を考えましょう。

まとめ

施設に入った親の家をどうするかを判断するポイントはいくつかあります。

所有者である親の意向が大切であることは大前提ですが、まずは経済的な面で、施設にかかる費用や医療費、維持管理費の負担が長期的に見ても問題ないかを考えなければなりません。

また、家の状況や立地条件などで、所有するか売却するか変わることもあるでしょう。

売却するとなった場合、タイミングによって所得税や相続税の負担は変わる可能性があるうえ、売却のしやすい時期なども考える必要があります。

今後の売却について明確に考えていくためには、不動産会社のサポートも必要です。
売却の希望や不安なことなど、気軽に相談できる不動産会社を見つけましょう。

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