
住宅ローンを滞納すると最終的に物件は競売にかけられてしまいます。しかし競売になるまでの間に取れる対策として、任意売却という方法があります。
競売の場合、市場価格の6~7割程度での売却となることが多いですが、任意売却は相場に近い価格での売却を目指すことが可能です。
本記事では、住宅ローンを完済できそうにない方に向けて、任意売却についてご紹介していきます。
これを読めば、競売を避けて物件を売却する方法がわかります。
- 任意売却と競売の違い
- 任意売却のメリット・デメリット
- 任意売却の流れとコツ
1.任意売却とは

まずは任意売却とはどのような売却手段なのかについて、以下の順番に解説します。
- 任意売却とは住宅ローンを完済しなくとも家を売却できる方法
- 競売との違い
それでは詳しく見ていきましょう。
1-1.任意売却とは住宅ローンを完済しなくとも家を売却できる方法
任意売却とは、通常、住宅ローンを完済しなければ売却できない不動産売却について、金融機関などの債権者と交渉することで、住宅ローンを完済しなくとも売却できるようにする方法を指します。
売却時に住宅ローンを完済する必要があるのは、住宅ローンを組む際に、対象の物件に抵当権を設定しているからです。
ローンを借りる側が貸す側へ不動産を担保に出すときに設定される権利
通常の売却方法では、抵当権は、基本的に住宅ローンを完済しないと抹消できません。
一方、任意売却では、売却資金や自己資金で住宅ローンを完済しなくても、債権者である金融機関などの承諾を得て抵当権を抹消してもらい、家を売却できます。
任意売却は、売却したお金を返済に充てても完済できない場合に選択肢に上がってくる売却方法と考えておくとよいでしょう。
ただし、債権者の合意を得られなければ任意売却はできないため、注意が必要です。
1-2.競売との違い
任意売却が債権者と交渉しながら売却を進める方法であるのに対し、競売は法的な強制処分であるという違いがあります。
住宅ローンの返済が滞ってしまった場合、一定の手続きを経て、競売手続きへと進むことになります。
具体的には、住宅ローンの返済が数か月滞ると、抵当権の効力を行使して対象の家が差し押さえられ、競売にかけられます。
競売が開始されると、入札希望者が希望価格をつけ、最も高い価格を入札した方が落札することになります。しかし、競売は落札した後も強瀬退去の手続きなどしなければならないことも多く、市場の相場より安く、6~7割程度の価格となるのが一般的です。
また、競売費用を負担する必要があるほか、遅延金など上乗せされるため、借入金が膨らんでしまうといった問題もあります。
一方、任意売却であれば債権者の同意が得られた場合、相場に近い価格での売却を目指すことも可能です。
2.任意売却のメリット

つづいて、任意売却にはどのようなメリットがあるのかを詳しく見ていきましょう。
任意売却のメリットは以下の通りです。
- 所有者の情報は非公開
- 引っ越し費用を売却資金から捻出できる可能性がある
- 引っ越し日や売却金額を相談できる
以下、それぞれについて解説します。
2-1.所有者の情報は非公開
一度競売が始まってしまうと、対象物件の所有者の情報が裁判所などで公開されることになります。
また、全国から入札参加者を募る為に、BITと呼ばれるインターネットサイトに物件情報が掲載される点に注意が必要です。
上記サイトは誰でも閲覧できるもので、物件の外観写真が掲載されるため、近所の人に知られ、噂になってしまうリスクも高いです。
一方、任意売却であればそうした心配はありません。
2-2.引っ越し費用を売却資金から捻出できる可能性がある
任意売却においては、債権者である金融機関などとの交渉次第ではありますが、売却代金から引っ越し費用を捻出できるケースがあります。
また、交渉次第では、売主が支払うはずの費用や税金について、債権者に負担してもらう費用控除を受けることができます。
2-3.引っ越し日や売却金額を相談できる
競売の場合は落札が決まるとすぐに所有権移転となるため、すぐに出ていかなければなりません。
出て行かない場合は不法占拠者となり、最終的には強制退去手続きを取られてしまいます。売却代金についても自由に設定できず、入札形式で決められるのみです。
この点、任意売却であれば、通常の売却と同じ方法で、買主を探すことになります。
相手方がいて、また債権者である金融機関の了承を得る必要があるとはいえ、引っ越し日や売却金額を比較的自由に設定しやすいです。
競売のように、ばたばたと家を出て行かなければならないといったことはありませんし、また売却金額についても市場に近い価格での売却を目指せるでしょう。
このように、任意売却は競売と比べて、あらゆる点で自由に進めやすくなっています。
3.任意売却のデメリット

一方、任意売却にもデメリットはあります。
ここでは、任意売却のデメリットについて見ていきましょう。
- 任意売却できる不動産会社の選定が難しい
- 信用情報に傷がつく可能性が高い
以下、それぞれ解説します。
3-1.任意売却できる不動産会社の選定が難しい
任意売却は債権者と交渉しながら売却を進める必要があります。そのため、大手の不動産会社や街の不動産会社では任意売却を扱っていないケースも多い点に注意が必要です。
任意売却を依頼する不動産会社を選ぶ際には、任意売却を専門に取り扱う不動産会社に相談するか、そうでない場合には過去に任意売却の実績がある不動産会社を選ぶようにしましょう。
3-2.信用情報に傷がつく可能性が高い
通常、任意売却は住宅ローンの滞納が6か月程度確認されてから初めて相談できるようになります。そのため、数か月分の住宅ローン滞納という情報は個人信用情報に記載されてしまうのです。
なお、一般的に住宅ローンを3か月~6か月滞納すると個人信用情報に登録されるといわれています。
一度個人信用情報に傷がついてしまうと、以下のような問題が生じるでしょう。
- 新たに住宅ローンやカードローンを借りるのがかなり難しくなる
- 所有しているクレジットカードの限度額が減額される可能性がある
- クレジットカードを更新できない可能性がある
また、一度個人信用情報に事故情報が掲載されると、消えるまでに5~7年程度の期間を要します。
この情報が消えるまでの間、新たにローンを借りることは難しく、またクレジットカードの更新もできなくなってしまう可能性があるのです。
4.任意売却の流れ

ここでは、任意売却の流れを見ていきましょう。
具体的な任意売却の流れは以下の通りです。
- 金融機関からの催促
- 金融機関と相談、現状把握
- 不動産会社の選定・査定
- 金融機関への確認
- 任意売却活動
- 売買契約の締結
- 不動産の決済・引き渡し
- 残債務を返済
ひとつずつ見ていきましょう。
4-1.金融機関からの催促
住宅ローンを滞納すると金融機関から督促状が届きます。住宅ローンを滞納したら即差し押さえなど行われるわけではなく、最初はハガキでの連絡です。
督促状が届いても返済しないでいると、滞納から3~6か月程度で期限の利益の喪失手続きがなされ、金融機関は保証会社から代位弁済されます。
代位弁済とは、借主が何らかの理由でローンを返済できなくなったときに、間に入っている保証会社等の第三者機関が、ローンを代わりに弁済すること。
代位弁済後は、保証会社から借主に対して一括返済が求められることになります。
また、期限の利益とは、債務者側が、毎月定められた期日までに返済すればよいという決まりのことで、期限の利益が喪失されると、あとは一括返済しか手がなくなります。
なお、督促状が届いた時点で滞納金額の支払いができるのであれば、その分任意売却がしやすくなると覚えておくとよいでしょう。
4-2.金融機関と相談・現状把握
住宅ローンの残債はどのくらいで、滞納金額がどのくらいか、また場合によっては自己資金や売却金でローン残債を完済できないかといった点を金融機関に相談しましょう。
完済できそうにないということであれば、任意売却を検討しなければなりません。
なお、任意売却はあくまでも、金融機関にお願いする立場です。金融機関次第では任意売却が認められないケースもある点には注意が必要です。
また、本来であれば、督促状がきてから現状を把握するのではなく、督促状が来る前に現状を把握しておいたほうが、よりよい対応を模索しやすくなります。
4-3.不動産会社の選定・査定
金融機関に相談して任意売却が可能であることが分かったら、売却を依頼する不動産会社を探します。任意売却を依頼する不動産会社については、任意売却の実績が豊富な不動産会社を選ぶようにしましょう。
不動産会社を選ぶ際には、複数の不動産会社に査定依頼を出すのがおすすめです。査定金額が適切でなかったり、対応が遅かったりすると、あっという間に任意売却できる期間が過ぎて競売にかけられてしまう可能性があるため、注意しましょう。
4-4.金融機関への確認
不動産会社に査定依頼を出して、査定額の提示を受けたら、金融機関に売却価格や時期、売却後の残債の有無などを報告します。
報告の結果、金融機関の同意が得られたら、任意売却の手続きを開始します。
4-5.任意売却活動
金融機関の同意が得られたら、実際に不動産の売却活動の開始です。なお、任意売却の場合でも、通常の不動産売却と同様、不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を始めることになります。
媒介契約とは、不動産の売却に際して、不動産会社に仲介に入ってもらい、広告や案内など売却活動を行ってもらうために結ぶ契約です。
売却活動中に内覧の申し込みがあれば物件を清掃するといった対応が必要です。
なお、売却活動を始めても買主が見つからない場合には、値下げなど検討していくことになりますが、値下げには金融機関の承諾が必要という点に注意が必要です。
4-6.売買契約の締結
売却活動の結果、購入希望者が現れたら売買契約を締結します。ただし、実際に売買契約を結ぶ前に、一度金融機関と最終調整を行わなければなりません。
売却条件などを確認してもらい、売却の同意が得られたら契約を締結できるのです。
なお、売却活動中に任意売却の際の契約書には以下の2つの特約を盛り込むことが一般的です。
任意売却は金融機関(債権者)の承諾を得る必要があることから、承諾が得られない場合には売買契約を白紙解約するといった特約を盛り込みます。
契約不適合責任は契約書の内容と実際の不動産との間で何らかの相違がある場合に、売主が責任を負うというもの。
しかし、任意売却では売主が資金を用意できないことが一般的であることから、契約不適合責任を免責とする内容を盛り込むのが一般的です。
4-7.不動産の決済・引き渡し
売買契約を結んだら、買主側の住宅ローン本審査の手続きなどを行った後、決済~引き渡しとなります。より具体的には、引き渡しに受け取った資金でローンを返済し、抵当権の抹消手続きと所有権移転の手続きを行うのです。
なお、任意売却では金融機関との交渉次第で引っ越し代金など、売却代金から捻出してくれるケースがあります。
4-8.残債務を返済
任意売却後もローンの残債が残る場合は、返済方法や金額について金融機関と相談のうえ、決めることになります。このとき、取り決めた内容については、返済に関する契約として、金融機関との間で契約書と取り交わしておくことが大切です。
5.任意売却の注意点

ここでは、任意売却する時の注意点について見ていきましょう。
- 売却活動は協力的に行う
- 名義人もしくは連帯保証人の同意が必要
それぞれ解説します。
5-1.売却活動は協力的に行う
任意売却は競売にかけられるまでの勝負です。できるだけ早く売却できるよう、売主本人も協力的に売却活動を行う必要があるでしょう。売れやすくするため、内見の対応や、内見で好印象を与えるように行き渡った清掃など行う必要があります。
売主が協力して売却活動を進めることもせず、競売が始まるまでに契約が成立しないと、最終的に競売にかけられることになってしまうのです。
なお、売却活動開始後、3~6か月経っても売却に至らない場合は、金融機関は並行して競売の手続きを開始します。
5-2.名義人もしくは連帯保証人の同意が必要
家の売却は名義人本人が手続きする必要があります。また、住宅ローンを組んだときに連帯保証人を付けている場合は、連帯保証人の同意が必要です。
よくあるケースとして、離婚していて、元夫の名義の住宅に住んでいる、もしくは元妻が連帯保証人であるといったケースが考えられるでしょう。
離婚して数年経ってしまっているような場合、そもそも連絡先が分からない可能性もあります。
こうしたケースでは任意売却の手続きを進められなくなってしまう点に注意しなければなりません。
6.任意売却を成功させるコツ

任意売却を成功させるにはどのようなポイントを押さえるとよいのでしょうか。
- 任意売却に慣れた不動産会社を見つける
- 不要なものは処分し部屋をきれいに見せる
- 早めに金融機関に相談する
以下、それぞれ見ていきましょう。
6-1.任意売却に慣れた不動産会社を見つける
任意売却は大手の不動産会社であっても取り扱っていないケースが少なくありません。任意売却を依頼するのであれば、任意売却に慣れた経験豊富な不動産会社を見つけることが大切です。
依頼した後は、競売が開始するまでの間に売却を完了する必要があり、素早く適切な対応をしてくれる協力的な会社を探す必要があるでしょう。
6-2.不要なものは処分し部屋をきれいに見せる
競売の場合は内見がありませんが、任意売却は通常の売却と同様、基本的に内見した後に売買契約となるため、できるだけいらないものを整理してきれいに見せることが重要です。
任意売却では住みながらの売却となるため、生活感が出てしまうのは仕方がありませんが、それでも、普段使っている食器など目に見えない場所にしっかり収納するなど工夫をすることが大切です。
その他、内見時には不動産会社に案内を任せつつ、必要に応じて、住人ならではの物件のアピールポイントを伝えるようにするとよいでしょう。
6-3.早めに金融機関に相談する
任意売却は競売にかけられるまでの間に引き渡しまで完了する必要があります。時間との勝負になるため、家賃の滞納が続いたらできるだけ早いタイミングで金融機関に相談するようにしましょう。
なお、任意売却の期間は、売却が認められてから最大で1年程度が一般的です。
少しでもよい条件で売却を進められるよう、督促状が届いたら(可能であれば届く前に)すぐに金融機関に相談し、現状を把握するなど準備に着手することが大切です。
7.任意売却できないケースとは

住宅ローンを返済できなくなったら、最終的に競売にかけられしまいますが、競売には相場より安い価格での売却となってしまうほか、さまざまなデメリットがあります。そのため、基本的には任意売却をしたほうがよいでしょう。
しかし、状況次第では任意売却できないケースもある点には注意が必要です。
- 金融機関がそもそも任意売却を認めていない
- 名義人の許可が得られない
- 金融機関の承諾価格と物件の市場価格が合わない
それぞれ見ていきましょう。
7-1.金融機関がそもそも任意売却を認めていない
金融機関側としても、競売になるより任意売却した方が高く売却できる可能性があるため、状況次第で任意売却に応じるケースがあります。
しかし、任意売却に応じるかどうかは金融機関次第です。金融機関が任意売却に応じないケースもあり、その場合は自己資金で一括返済するか競売するしか方法がなくなるでしょう。
7-2.名義人の許可が得られない
不動産を売却するには名義人の許可が必要です。特に問題となりやすいのが、連帯保証人がいるケースです。
例えば、離婚して数年経ったものの、連帯保証契約が残っていたというケースでは、連帯保証人から許可を得られなかったり、場合によっては連絡先が分からなかったりといったことも考えられるでしょう。
また、名義人が病気やケガなどで応答不能の状態になってしまっている場合には、名義変更できません。この場合、後見人の専任などで名義変更できるよう手続きする必要がありますが、その手続きに数か月かかってしまうため、任意売却が可能な期間を過ぎてしまう可能性が高いでしょう。
7-3.金融機関の承諾価格と物件の市場価格が合わない
任意売却となると、金融機関の承諾を得て売却活動を行う必要があります。しかし、金融機関の承諾価格が物件の市場価格と合わないケースもある点に注意が必要です。
任意売却の手続きを始めると、不動産会社と金融機関がそれぞれ査定価格を算出しますが、不動産会社の査定額は必ずしも金融機関の承諾価格とイコールではありません。
不動産会社は、不動産を売却するプロですから、金融機関より不動産会社の方が市場価格をしっかり把握しているものです。
一方、金融機関は残債価格や近隣相場を参考に承諾価格を決定するため、市場価格より高値になってしまうことがあります。
とはいえ、金融機関が承諾しない限り売却価格を変えることはできないため、こうしたケースでは買主を見つけることができず、最終的に時間切れで競売となってしまうおそれがあるでしょう。
この記事のポイント
任意売却の概要は以下の通りです。
- 通常、抵当権の設定された物件は住宅ローンを完済しないと売却できない
- 任意売却は、住宅ローンを完済できないケースにおいて、抵当権設定権者である金融機関と交渉して抵当権を解除してもらう売却方法
- 任意売却であれば、通常の不動産売却とほとんど変わらない方法で売却を進めるため、市場価格と同程度で売却しやすい
詳しくは「1.任意売却とは?」をご覧ください。
任意売却のメリットは以下の通りです。
- 競売のように所有者の情報が公開されることがない
- 引っ越し費用を売却資金から捻出できる可能性がある
- 引っ越し日や売却金額を相談できる
詳しくは「2.任意売却のメリット」をご覧ください。
任意売却のデメリットには以下のようなことがあります。
- 売却に期限がある
- 任意売却できる不動産会社が少なく選定が難しい
- 個人信用情報にキズがつく可能性が高い
詳しくは「3.任意売却のデメリット」をご覧ください。
任意売却の流れは以下の通りです。
- 住宅ローンの滞納から3~6か月経ってから金融機関に相談する
- 任意売却を受けてくれる不動産会社と媒介契約を締結し売却活動を始める
- 購入希望者が現れた後は金融機関に相談しながら条件を交渉し、双方で条件がまとまったら売却となる
詳しくは「4.任意売却の流れ」をご覧ください。
任意売却では以下のようなことに注意が必要です。
- 内見前に徹底的に清掃するなど協力することが大切
- 連帯保証人がいる場合、連帯保証人の承諾が必要になる,100の厳選された不動産会社と提携
- 離婚した配偶者が連帯保証人になっているようなケースではトラブルに発展しやすい
詳しくは「5.任意売却の注意点」をご覧ください。
任意売却を成功させるためにコツは以下の通りです。
- 任意売却の実績が豊富な不動産会社に相談する
- 内見前は徹底的に家を清掃する,100の厳選された不動産会社と提携
- できるだけ早く金融機関に相談する
詳しくは「6.任意売却を成功させるコツ」をご覧ください。
以下のようなケースでは任意売却できない可能性があります。
- 抵当権設定権者である金融機関が任意売却を認めてくれないケースがある
- 連帯保証人の承諾が得られないと売却できない,100の厳選された不動産会社と提携
- 金融機関の承諾価格と市場価格に乖離がある場合は売却できない可能性が高くなる
詳しくは「7.任意売却できないケースとは」をご覧ください。